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「最後はこの踊り場の鏡」
優等生はそう言って踊り場の階段を降りて。踊り場の真ん中の鏡の前に立ち。下から俺を見つめて喋る。
「この鏡から手が『伸びて』異世界に連れて行かれてしまうと言うヤツ。これで怪談七伸び不思議は全部だよ。ほら、こっちにおいでよ。まさか鏡が怖いとか言わないでくれよ?」
少しだけ挑発するかのような物言い。
なんたが鏡に近づくのが嫌だった。よく分からないけどまた頭。特に後頭部がずきりと痛んだ。
でも、怖気付いていると思われるのもシャクで「誰が怖いかよ」と、言いながらもゆっくりと階段を降りる。
一歩、階段を降りる度に鏡に俺の姿が写し出される。足先から下半身。下半身から上半身。そして全身が鏡に映り。踊り場に辿り着き、優等生の横に並ぶ。
「ほら。これでいいだろ。七不思議ツアーもこれで最後。これでなんか怖い事が起こるとか?」
「鏡を見てごらんよ」
また苦笑する優等生。
言われた通りに薄紫色の鏡を見る。
鏡の中の俺は気崩したブレザー姿で怪訝そうな顔をしていた。
鏡越しに背景も確認するが何もおかしな事はなくて。踊り場に俺だけが。
「あれ。俺だけ?」
言葉にしたとき、ハッとして鏡と隣にいる優等生を見比べる。
目の前に優等生は佇んでいるのに、鏡には映っていない!
しかも、やっと気がついた。
後ろに一歩退き、優等生をまじまじと見つめる。
「お、お前。なんで学ランなんだ? この学校はブレザーだろ。そもそも──お前は誰だ?」
優等生。気が付いたらそう呼んでいた。何の違和感もなく普通の友達と変わらぬように接していた。
なのに優等生の本名も、どこのクラスかもさっぱりと思い出せ無かった。
「僕は僕さ。その様子だと、やっと伸びた意識が戻って来たのかな。君は階段を踏み外して後頭部を強く打って、この踊り場で伸びていた。思わず心配になってしまって、手を伸ばしてしまった。悪かったよ」
「な、何を言ってるんだ。意味が分からない」
「ほら。最近、君は良くこの鏡の前で変な踊りとかしていただろ? それが面白くてさ。ちょっと君と喋ってみたくなった」
また、一歩後ろに下がった瞬間。
俺の腕をがしりと掴む感触がした。なんだと、思った瞬間には腕、腰、足と。次々と体をガシガシと掴まれた。
「!!」
びっくりして、自分の体を見るといくつもの白い手が俺の体を離すまい力強くと掴んでいた。
しかも、その手はあの鏡から伸びていた!
「う、うわぁぁっ」
これは悪夢なのか、いや。
七不思議の呪いのなのかと、鏡から伸びた手を振り払うように無茶苦茶に暴れるが、暴れる分だけ鏡から手が幾つも伸びて俺に絡みつくばかり。
口にまで手が伸びて、あっという間に声が出せなくてさらに恐怖は増加する。
目の前の学ランを来た人物は落ち着いた様子で。
すっと俺に近づいて。
「そんなに暴れなくてもいい。その手の多さ。やっぱり君は人望があるね。ほんの少し、喋れて楽しかった。階段は今後、三段飛ばしで降りないように。じゃあね」
とんと、俺の方に腕を伸ばして胸を押されたと思った瞬間。ぐいんっと、もの凄い力で鏡に向かって体が倒れるような、吸い込まれるような引力を感じて怖くなり。
ぎゅっと深く目を瞑ってしまうと、意識も闇の中にあっという間に沈んで行った。
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