怪談七伸び不思議

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放課後。 薄暗い出口が見えないトンネルのような長い廊下で、俺と優等生は他愛のない会話をしていると。 突然優等生が。 「そうだ。怪談七伸び不思議。僕はそう呼んでいるんだけども。知ってる?」 ハッキリとそう言った。 隣を歩く優等生は学ランをキッチリと着こなして、見た目もしゃんとしていてまさに優等生とよぶに相応しい。なのに口に出すセリフはなんとも残念だと思った。 俺はブレザーのネクタイを緩めて、ふむと頷いてから。 「七伸び不思議って、語呂悪すぎだろ。そんなの知らない」 と素直な感想を言ってしまった。 しかし優等生はクスクスと笑って。 「そうだよね。でもさ、七不思議とか怖い話しとかさ。異界から『のびて』来るものが多いんだよ」 ふふっと。まだ笑う優等生の横に並び、廊下を歩きながら一応話を聞く。 「有名な学校の怪談と言えばトイレの花子さん。これは外せない。けれども彼女は現れる怪異。姿を見せる怪異だね。でも、トイレの怪談には怪異から呼び掛けて、便器から手が伸びるものが幾つもある」 「あー。確かになんかそう言ったものがあるな」 丁度、トイレの前を通り過ぎて俺が知っている怪談を思い出す。 トイレで用を足していると紙がなくて、便器の中から赤い紙、青い紙、黄色の紙がいるかと聞いてきて、どれを選んでも便器の中から手が伸びてきてバッドエンド。 せめて回避ルートぐらい用意しとけと思う。 「あ、今お手洗いあったから伸びる手を探してみるかい?」 「やだよ。普通に臭そう」 「ふふ。そうだね。僕もそう思うよ。怪異に会いたくなければアクションを起こさない。それに越したことはないのに。なんで皆、怖い話に怪異に自ら手を伸ばすのか。よく分からないね」 優等生がチラリと意味あり気に廊下の横の階段に視線を投げた。 思わずそちらを見ると廊下と同じく薄暗く、階段の先が見えなかった。特に気にすることなく、隣を歩く優等生を見る。 「怖いもの見たさだろ。お化け屋敷のアイデンティティを揺さぶる発言だな」 俺がそう言うとまた優等生はくすりと笑って、長い廊下を曲がる。 曲がったところでたいして風景は変わらないが、窓の外の様子は夕焼けが過ぎてオレンジ色から、紫色に変化していた。 もうすぐ夜になるなと思った。 「ま、そんな訳でこの学校には『のびる』怪談が七つあるんだよ」 「へぇ」 「さっき通ったお手洗いの便器から伸びる手、ずっと伸び続ける廊下に階段」 「伸びるってなんか面倒だな。対処に困るというか」 「そんな直ぐに対処されたら、怪談じゃないよ。君みたいに面倒っていう理由でもいいけど、僕的には怖いと畏怖されることで、お互いの世界の境界線を守っていると思うが方がスマートかな」 また、へぇと同じ返事をする。 小難しいことは俺には良く分からない。 それよりも日が落ちてきたせいか少し、空気が冷たくて体を震わせると頭が少しだけずきりと痛んだ。
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