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寒気と痛みを追い払うかのようにぐっと、背伸びをして。
気がつくと視界に職員室と書かれた、プレートが見えた。
「な、優等生。職員室には伸びる怪談ないの? なんか呪いのチョークとかでさ。一度書くとずっと、伸び続けるチョークがあるとかさ」
こんなふうにと手を大きく広げてみるが、優等生は横で静かに笑うだけ。
「そんなチョークあったらエコだよね。そんな伸びるチョークはないけれども。校長室に飾っている日本人形。あれは髪が伸びるよ」
「そんなこと聞いたことないけど?」
「だろうね。今の校長先生と人形、相性が良いんだよ。今の校長先生が退任とかして居なくなったら気をつけたほうがいい」
「気をつけるって。でも、髪が伸びるだけだろ?」
優等生は俺の質問には首を少し傾けただけで、何も答えず。
「あとは、体育館に響くボールの音。あれは良くない。音が聞こえたら逃げた方がいいね」
おやと思った「ボールの音? 『のびて』ないじゃん」と、言おうと思ったら。
「あれさ、昔体育館で首吊り自殺した生徒の首が長くなって。伸びて。縄から下ろしたらポーンって頭がボールみたいに床に跳ねた音で──」
「ちょっ! ストップ怖い怖い! 流石に引くんですけどっ」
「そう。そうやって引くのが正解だ。君みたいなお人よしは特に気を付けた方がいい。可哀想だと思って手を伸ばさないこと。それを狙ってくるやつらもいるからね」
ふっと苦笑してから、優等生は先を急ごうと足を早めた。
置いてけぼりを食らわないように、俺も優等生の歩く速度に合わす。
流石にこんな人気のない学校で、一人にされるのはごめんだ。
──……一人?
あれ。この時間ならまだ皆、部活をしているんじゃないか?
なんで誰にも会わない?
何か変だなと思ったとき。優等生が手をパンっと打った。
すると疑問が霧散していく。妙な気持ちだったけれども、優等生の声に耳を傾けなければならないと思った。
「えーっと、今で五つの伸びる不思議を紹介した。トイレから伸びる手。廊下、階段が伸びる。人形の髪。体育館の音。六つ目は時間が『伸びる』ってやつでね。これは遭遇しても凄く気付きにくい。対処は意識をハッキリさせて意識を伸びさせないことかな」
「なんだか難しそうだな。で、七つ目は何だよ。もったいぶるなよ」
「別にもったいぶってる訳じゃなくて、君への今後のアドバイスをしてるだけだから。それはさておき、七つ目は丁度ここだよ」
優等生がピタリと止まり、すっと指を差した場所は階段の下踊り場。
その踊り場の真ん中には大きな鏡が壁に貼り付けてあった。
この踊り場の鏡は大きいため、女子達は良く動画を撮っていたり。俺も友達とふざけながら、バカな動画を良く撮る校内の人気スポットだった。
しかし薄暗いせいか。鏡面はいつもと違って。
なんだか薄紫に光っているかのように見えた。
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