探偵助手は赤い糸が見える(仮)

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「ただいま〜」 「おかえりなさい、何か掴めました?」 「うーん……別の問題発生」  柊吾が事務所内のソファーの端に座ると、後から入ってきた立花もその隣へ腰を下ろす。  二人の疲れた様子に百花は立ち上がり「コーヒー淹れますね」と声をかけた。  探偵社の営業は終わっているが、百花は二人を待ってくれていた。 「はい」 「どうも」 「柊吾には牛乳入り」 「ありがとうございます」  本日三杯目。砂糖とミルクたっぷりのカフェオレは疲れた体と心を癒やしてくれた。  一口飲むと、ほっと息が漏れた。  二人の顔を交互に見てから、百花は得意げに言った。 「問題発生、私ちょっと分かったかも」 「え?」 「ていうかね、森さん、見つけられたかも、写真貸してもらえますか?」 「……?」  柊吾も立花もクエスチョンマークを盛大にまき散らす。それでも立花は言われるまま、手帳に挟んでいた森一織の写真を百花に手渡した。   「ちょっと待ってて下さいね」 「見つけたかもって?」 「まだ確定出来ないので……」  座ったままなので見えないが、パソコンで何やら操作している百花は画面から視線を外さず口だけを動かした。  立花は腑に落ちない、といった口調で質問を投げる。 「どうやって?」 「名前で検索したら出てきたから」 「は?」 「してませんか?」 「……まだやってない……職場は分かっていたし……」 「あ、ビンゴ」 「マジっすか?!」  二人して立ち上がり、座っている百花の後に周りパソコン画面を覗き込む。  至近距離なので、百花が付けている香水の香りがふわりと鼻腔に届いた。 「こっちが写真の森さんね、で、検索で出てきた森さんの写真……これを判定ソフトを使って同一人物か判別すると、ほら、98%同一人物、多分この人よね」  画面の中では百花が言うように二人の写真が並び、98.35%という数字が出ている。骨格や目の位置などの情報から判定するもので、以前も人探しに使った事のあるソフトだ。ある程度信頼出来る。  しかも、画面に映る人物は写真の女性と良く似た、歳も近そうな男性だった。 「最初、兄弟かなって思ったの、写真一回見ただけだったし、名前も違うから……でも、問題発生なんて言うからもしかしたら〜って思って」 「名前が違う?」 「そう、この人……名前で検索したらお店が出てきたの、最近新宿の有名店から独立した洋菓子店のオーナーパティシエ森一織(もりいちり)って、探して欲しい女性は森一織(もりいおり)、一織もいおりって読めるしね」 「確かに面影はある……まぁ、同じ人なんだけど……」 「問題発生って男だったって事?」 「……うん、でも問題解決」  でもそれはそれでまた別の問題があるのではないか?  森は名前と性別、職場を偽り松浦と付き合っていたという事だ。  だが、それを知らず松浦は結婚を申し込んだ。だから、松浦の前から姿を消した……?  それが本筋なのだろうか?  多分立花も柊吾と同じ事を考えているのだろう。画面を食い入るように見つめ、思案に耽っているようだ。  だが、ここで考えても答えは出ない。  それならば。  立花がポツリと呟いた。 「明日、その店に行ってくるか……」 「社長!!!」  百花が食い気味に立花を呼ぶ。  画面を検索ソフトから、森一織の洋菓子店のホームページへと移す。 「な、なんだ?」 「じゃあ、お土産お願いしま〜す!」 「あ、これっすか?美味そう〜」 「私は季節のフルーツタルトがいいです、あと事務所のお菓子と、いつも佐和さんには貰ってばかりだからお返しのお菓子もあるといいかな〜」  画面に映し出されるケーキや焼菓子はどれも美味しそうだ。柊吾も夢中になってそれらを見る。  二人の期待した目に負けたように、立花は頷いた。 「……分かったよ」  百花と柊吾は笑顔で目線を交わした合った。
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