探偵助手は赤い糸が見える(仮)

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 高校卒業後田舎から出てきたものの、柊吾にはやりたい事がなかった。  家から勘当された訳ではなく、ただ、あの家に居ても柊吾の居場所はない。神社を継ぐ事も早々に諦めていた。  糸が見えるだけで何も出来ない、あの家にいる意味が見いだせなかったのだ。  御堂の分家筋を頼り東京に出てきて適当にバイトをしながら2ヶ月。このままでいいのか、と何度も自問したが答えはなかった。  親からは大学に進学したらどうかと言われていた。興味があるものがあれば専門学校でもいい。進学資金の心配はしなくていい、そんな風に言われ、それもありかと思っていた矢先だった。  朝のスーパーの品出しのバイトを終えれば、その日はやる事がなかった。  幼少の頃とは違い赤い糸が無尽蔵に見える事はない。だけど、道行く人たちの指先を眺め糸の繋がりを目で辿るのが日課になっていた。たまにはその糸の先を見るため知らない街を歩く事もあった。  何故そんな事をしていたのか、柊吾自身も分からない。たぶん、暇だったからだろう。  駅前ロータリーにある、木製ベンチに腰掛け通行人を眺める。  6月中旬、梅雨の合間の珍しく晴れた日。肌に纏わりつくようないつもの湿気がなく、頬に触れるのは爽やかな風。夏を感じさせる日差しは、頭上の新緑が作り出す木陰で幾分和らいでいた。  柊吾はスーパーで買ってきたお茶のペットボトルを飲みながら、眼前を通り過ぎていく人達を眺めていた。  駅から出てきた数人の内の一人、30代位の背の高い男が柊吾の座るベンチの方へやってきた。ちょうどベンチの2メートル程手前で立ち止まる。  片手に持つスマホ画面を見ては左右に首を振っているので、地図を見ているのだろうと勝手に検討をつけた。  スーツ姿で、手には紙袋を下げている。紙袋は見たことのある和菓子屋の名前が入っているので、菓子折りだろう。仕事で営業先に持っていく、とかかもしれない。  別に誰でもよかった。たまたま近くに来たから癖で指先を見ただけだ。少しだけ目に力を込め、男の指先を見る。  左右どちらの指にあるかは人により違うので、まずはスマホを持つ左手。糸はない。  それならば右手には……ない。小指にある筈の糸はない、稀に別の指に巻かれている事もある(小指がない場合もあるからだ) のだが、男の両手の五指全てに糸はない、巻き付いたり、ぶら下がってもいない。  そこで初めて男の顔を見上げた。  短い黒髪、やや垂れた目は穏やかそうな印象を受けるが、眠そうにも見える。鼻の右横に小さなほくろ、唇は。  見ていたからか男と目が合った。だがそれは一瞬の事、男は直ぐにスマホ画面に視線を移し足早に去って行った。 「……いるんだな……」  男が右折して見えなくなると、柊吾はぽつりと呟いた。  人の数の多い都会に来ればもしかしたらとは思っていたが、本当にいた。  見るのは初めてではないが、本当に稀有な存在だ。だからどんな人物か興味を持った。  でも、持った所できっともう会う事はないだろう。  そう思っていたが、機会は直ぐに巡ってきた。  一週間後また同じ場所で柊吾は男と出会った。
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