*《優しくしてやる》

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*《優しくしてやる》

 無理やり歩かされながら鏡梨は一向に黙っている双葉に「早く手を離せよ」「おい、聞いてんのかよ!」怒鳴りつけながら話を進めようとした。 「あいつとくっついてなにが悪いんだよ? 金も持っていそうだし、なにかあったら頼りになるだろう?」 「……俺があいつのヒモになれって?」  野獣に睨みつけられるような視線を落されて青年はたじろいだ。そしてヒモ発言はまずかったかと思い至る。 「そうは言っていないけどさ。じゃあなにが不満で――」  すると壁際に引き寄せられたかと思えば顔の横に手を付けられた。勢いよく音が鳴ったかと思えば鏡梨はビクついて瞳を閉じてしまう。   ――双葉は耳元に近づいた。 「なんの真似だ嬢ちゃん。俺になにを求めている?」 「なにって……」  初めはなにを求めているのかさえ考えた。だが湊の二万円を思い出し思考を巡らせる。  ……こいつとあの男がくっつけば自分はカガリという存在だけになる。そう思えば、話は早かった。唾をわざと吐いてにやりと笑い「お前に嫌われたいんだよ」冷酷に告げたのだ。  双葉は意表を突かれたような顔をした。 「俺がお前を……嫌う?」 「そうだよ。どうせお前はカガリとしての俺が好きなんだろ? それで良いじゃねぇか」  唾を吐いたのだ。これで嫌うだろうと思えばすっきりするものだ。  これで無暗に抱き着かれることもなくなる。慰められることもなくなる。――自分など見なくなる。  雨も降っていないのに瞳から水が零れた。双葉が吐いた唾を拭って瞳をべろりといやらしく舐め上げて笑う。 「その割には泣いてんじゃねぇか。怖いんだろ?」  そんわけなどないと言いたいのに涙が幾筋も零れて瞳を潤させる。双葉は太い息を吐いた。 「やっぱりお前は目が離せねぇな。……そんで、お持ち帰りだ」 「なん、だよ。お持ち帰りって?」  双葉は抱き寄せたかと思えば担ぎ上げ「ホテルに行くんだよ」一言告げて泣き出している美青年を攫うのだ。  ホテルへ入室しベッドへゆっくりと下ろされたかと思えば――優しいキスが降り注いだ。軽いバードキスから入る様はこの前とは打って変わって鏡梨を気遣うようだ。 「んぅ……ふぅ……」 「本当に可愛いよな、お前。――本当に目が離せないくらい」  唇を啄まれて見上げると優しげな野獣の姿がそこにあった。その視線に鼓動を弾ませてしまう自分を押しのける前に、野獣は座っている美青年の股を広げて下着をずり下ろした。「なにすんだよ……」赤ら顔で困惑した様子の青年に野獣は青年自身を取り出し優しく呑み込む。  屹立さえも呑み込まれ、下から舐め上げるような容赦のない愛撫に青年は淫らに口端から甲高い声と共に淫らな液を零す。 「い……や、あぅ……うぅ……!」 「ははっ。どうだよ? さすがにこれはされたこと、ないだろ?」  ジュルリと音を立てて舐め上げる様はいやらしげで淫靡だ。その有様はあまりにも目を瞑ってしまいたいものであるが、空いている片手で固定されてさも見ろとでも言いたげな双葉の視線に鏡梨は釘付けになる。  双葉が鏡梨自身を喉元へ誘い込み上下に扱いた。それだけでたまらないほど達したくなった。 「うぅ……、イキたい……! イキたいっ……!」 「イケよ。――受け止めてやる」  喉を鳴らして応える双葉の淫乱な様に鏡梨は下半身を唸らせて達してしまう。  息も絶えてしまうほど甘美な空間のまま、鏡梨はワンピースのボタンを外されて見事に脱がされてしまう。  すると双葉も脱ぎだした。逞しく野性的な身体つきに鼓動が跳ねてしまう。 「なんで、俺なんだよ? 俺はあんたのリリシストで良いじゃねぇか……よ」 「それがそういうわけにはいかないんだよな」  視線を捕らえられ外そうにも向けられる野獣に青年は息を呑んだ。こんな色っぽい展開は久しくなかった。  野獣は口端を舐めてニヒルに笑う。 「お前がリリシストとしても、人間としても好きなんだよ」  良いから早く俺に堕ちろなんて甘くも欲のある野獣の言葉に鏡梨は心臓が飛び出そうになってしまう。  ローションをヒクつく蕾に塗られて指を侵入された。掻きまわしつつも前立腺を刺激されて甲高い声を上げてしまう。 「あぅ……ひぃぅ……――やぁっ……」 「今度は失神すんなよ。優しくしてやるからっさ!」  グチりと指を挿入し終えて獣は熱い肉棒を充てがった。「挿れるぞ」と真剣な声でゆっくりと侵入し奥へ奥へと屹立が入り込んでいく。 「うぁっ、あぁっ……あぅっ……!」 「まだ失神すんなよ? 楽しみは取っておかないと、なっ!」  奥まで入り切ったかと思えばゆっくりと律動を開始した。掻きまわして欲しいという欲はなく、そのまま溺れて死んでしまいたいと願う。――それぐらい性行為は気持ちが良いものであった。 「あぅ……出る……――イクっ!」  白濁液を放ち息を放つ鏡梨はドクドクと脈立つ己のなかに感じる双葉を擦るように目線を向けた。 「お前も……イケ。俺は、もう、平気だから……」 「本気にしちまうぞ?」  それでも構わないという風な鏡梨に獣は激しい抽挿を送る。その激しさは脳内を掻き回してしまうほどだ。 「お前、が、いいって……言ったんだから、な?」 「う、うん……」  双葉も達し遅れて鏡梨が白濁液を放った。すると鏡梨は意識を手放すように眠るのだ。  気が付けば真夜中になっていた。連絡しないと心配させると思った鏡梨ではあったが、紙袋を携えて平手打ちをされたであろう赤い左頬の双葉が微笑んでいた。 「なんで、怪我してんだよ?」 「勲章の証だよ。――湊とは縁を切ったんだ」  なんでだよなどと言いたいがその前に紙袋を差し出され「中身空けてみ?」促されたので開けてみると……白と黒のモノトーンだが可愛らしいワンピースがなかに入っていた。 「なにこれ?」 「それがお前の勝負服兼ステージ衣装だ。感謝しろよ?」  紅葉柄の左頬でニヒルに微笑む野獣に「……傷治せよ」そう言ってワンピースを抱き締めて笑った。――案の定、銭湯に電話を掛けると父の鏡史が心配をしていたので「双葉と居るから大丈夫」少し恥ずかしげに答えると双葉の笑みが零れた。
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