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《愛されている》
九条の見事な働きで居場所を掴むことができた。刑事たちも賞賛の嵐でなにをどういう風にして掴んだのかと尋ねていけば「俺たちを鏡梨さんの救援に行かせてくれたら教えるっす」なんて調子の良いことを放った。
こいつやるなとか双葉は思いつつ、渋々と言った様子で刑事たちは双葉たちを特別で救援部隊に加えたのだ。
九条のおかげで双葉は鏡梨を助けられることへ喜びと共に犯人をぶっ飛ばしたい思いに駆られた。――鏡梨を傷つけるにならば暴れる獣になっても良い。
「鏡梨……待ってろよ」
強く拳を握って双葉は警察車両に乗り込んだ。九条は尻尾を掴み上げた種明かしとサポートに回ってくれている。心強いマブダチ……親友だ。
警察の車に乗り込んで九条が掴み上げた居場所へ急行した。警察も拉致監禁の疑いが強く池田組というのもあるので、多くの警察車両を走らせている。
たどり着いた場所は立派な日本家屋であった。ここに鏡梨が囚われているのかと思うと怒りが煮えたぎる。
早く鏡梨を助けたい――そんな強い思いが宿る。
警察車両から降りて九条や警察のサポートのもと、双葉とほかの刑事たちは何手か別れたのだが、双葉は裏門に回った。表門では警部が引き付けているそうだ。
「じゃあ行きましょう、白淵さん」
「うすっ!」
気合を入れて突撃の準備をする双葉と刑事たちは施錠されている裏門をこじ開けて慎重に侵入する。
それにしてはやけに人が少ないことに逆に恐怖を抱いたのだが、理由が判明した。――ある一室の前に黒服たちが固まっていたのだ。ドレスやロリータ服を持った黒服たちが立っている。
そこに鏡梨が居るのかと思うと蹴散らして奪い返そうと思うほどであった。だが刑事に肩を掴まれた。
「白淵さんはそこで待っていてください。俺たちがなんとかします」
刑事はそう言った瞬間に多くの警察を連れて現れた。
「警察だ! そこを退け!!!!」
黒服たちを蹴散らすように対抗し、戦っていく。黒服も現れた刑事たちに驚いて洋服をすぐさま置いて応戦した。
拮抗する両者の狭間で双葉は居ても立っても居られず飛び込んで轟音を立てて襖を開け放つ。――動かない人形がそこに居た。されるがままの、浴衣を着た麗しい日本人形が男に凌辱されていたのだ。
男が……池田が言葉を発そうとした瞬間、双葉は殴りつけ壁へと叩きつけた。
――バァン! と良い音がした代わりに池田は気絶をして壁に項垂れて気絶する。しかしそんなのどうでいい。身動きを一つもしない鏡梨を抱き起し声を掛け続けた。
「鏡梨、鏡梨!!!」
何度も名前を呼んでみれば鏡梨は一筋の涙を浮かべていた。虚空を彷徨うその姿は儚さと憂いを伴わせており、心ここにあらずといった様子であった。
「ふた、ば……双葉。――たす、けて。こわ、い……」
紡ぐような糸は双葉を離さずにはいられなかった。
「大丈夫だ、助けに来たぞ」
「……ふ、たば?」
「あぁ、そうだ」
少し顔を紅潮させた鏡梨は身体を委ね「ありがとう」そう言って安心するように眠るのだ。
気が付くと鏡梨の目の前には涙を浮かべた鏡史と母親の姿が居た。
母親には強く抱きしめられ「無事で良かった!」なんて言ってくれた。とても嬉しかった。愛されている実感が芽生えた。
両親から聞かされたのは池田の拉致監禁罪で逮捕ということであった。またグレーな組織の池田組のことだ。捜査本部が置かれるだろうとの見通しもあるらしい。
池田が供述していたお人形さんごっこに関しては鏡史が「気づかなくて申し訳なかった」そう言って頭を深く下げて涙を流していた。
「大丈夫だよ父さん。もう、平気だから」
「本当に気づかなくてすまなかった……。これからはそういう関係の人たちは申し訳ないけれど出禁にしておくよ」
客がどう変わるかわからぬが両親に申し訳ないことをしてしまった反面、両親の愛情がさらにわかり深まったのだ。
親子との再会もあるが警察からの事情聴取も受けた。
池田組関して裏も暴きたいというので根ほり葉ほり聞かされたもののちゃんと答えることができた。
――自分を助けてくれた騎士は現れなかった。
夜になり病院を去って家へと帰宅した鏡梨はすやすやと眠っている両親を見てから、自室へと入った。
自室へ向かいなんとなくリリックを書いていく。時刻は夜の十時頃なのでまだまだ寝付けないのだ。
「なんか……疲れた、な」
窓を開け放ちそよそよとした風に揺られてリリックを組んでいく。集中しながら書いていくと窓辺から音がした。
音がしたので窓へと近寄れば――唇を奪われた。目の前を見ると、大らかな野獣がニヒルに微笑んでいた。
「よぉお姫様? 騎士が攫いに来たぜ?」
窓から伝い部屋へと上がり込む野獣に美青年は微笑んだ。
「なんだよそれ。……でも、あんたになら――双葉になら連れ去られても良いな」
「今日は一段と可愛いな。お姫様は」
「うっさい」
夜風に吹かれてキスをする。すると二人は書置きを残し『湯花』から出て行くのだ。
――今夜の野獣は一味違う。
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