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《エピローグ》
「2024年、MCバトル王者――――早芽!!!」
MCのアグレッシブな声に観客は轟いて沸き上がる。そう来なくっちゃという雰囲気だ。
出てきた勝者は首筋に双葉の入れ墨を入れた大柄な男だ。男は前に躍り出でトロフィーを掲げる。
――それは賞金一千万円とメジャーデビューが確約されていた。
髭剃りでも残った髭と茶髪でくせ毛のある、髪が長めの男はマイクを片手に息を吸う。
「てめぇら、もういっちょ行くぞ! ついてこれるか!???」
観客がヒューヒューと歓声を浴びせる。雄のフェロモンさえも抱いた男は鎮まるのを抑えて一気に解き放つ。
「じゃあ行くぜ! ――ヤットこ騎士!」
DJがスクラッチを上げてビートを刻む。そして踊りながら早芽こと白淵 双葉は曲を歌い上げた。
青年がパソコンの音源でなにかを弄っている。そこにはサンプルと呼ばれるフリー音源が詰め込まれていた。
青年は趣味で曲を作ってアップロードをしているのだ。彼は作詞家も作曲家もなんでもできる。
音大に通っていたのでピアノやギターならお手の物だが、一番は――。
「鏡梨~。店番頼めないか?」
「あぁ父さん。任せて、店番も風呂のこともなんとかするよ」
泉 鏡梨。今年二十歳で音大中退の引きニートっぽい、銭湯『湯花』の息子。
そんな彼は自分が手掛けた作曲の一つ、ヤットこ騎士の評判がうなぎ上りであるのに鼻を膨らませて風呂場の作業に取り掛かった。
鏡梨の裏の顔は……カガリとペンネームで称されているラッパーの作曲者かつリリシストであった。
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