0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
晴天とは真逆の、真っ暗なカラスが遠くのビルへ向かう。
1ヶ月の東京、一人暮らし。それもついに、早くも終わり。想像以上に早かった。
もっとつまらなく、早く帰りたくなると思っていた。もっとすんなりと、別れの言葉が言えると思っていた。
理不尽まみれ、大変なことばかりだ、と脅されていた。蓋を開ければ、そんなことはなかった。まだ無知盲目なだけかも知れないが。
これからは実家近くの職場になる。待ちに待った家族とも会える。見慣れた土地に腰を据えられる。寂しさと引き換えに。
やってみたら案外簡単かもしれない。そうだった過去は数多い。今回も例に漏れず、かも。
こっちでは色んなものを手に入れてきた。出会いはもちろん、経験も物も。一度きりだと思っていた人にまた会う機会があったことの嬉しさ。ずっと夢見ていたコトやモノ。
それらは、僕がほんの少しだけ一緒に生きた町を思い出させる。あの時食べた物も、話したことも、ふとした時に思い出す。それこそ、くしゃみみたいなものですら。
散々思いを伝えたはずなのに、まだ心の中には話したい、伝えたいことが残っている。空にしたはずなのに、どこからともなく湧き出てきた。もうどうしようもないから、このまま行こう。
今やもう、昨日握った手の温度すら忘れてしまった。
時刻はもうすぐ14時。後ろにはスーツケースを持った人が並んでいる。僕のスーツケースは今日の朝、コンビニから実家へ送った。
新幹線がやってきた。ただひたすらに、僕の帰る場所を目指して。目の前でドアが開き、後ろではスーツケースを持ち上げる音がした。否応無しに僕は乗ることになる。
座席に座ると、ドアは閉まる。体は背もたれに押しつけられる。
じゃあ、また
最初のコメントを投稿しよう!