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ある女王様の切っ掛け
ここは都内某所にあるマンションの一室。
そして部屋の片隅でせっせと化粧直ししている私の名前は『真島早苗』
実はちょっと変わった仕事をしている。
それは…。
「彩実~予約のお客様ホテルに入ったって」
「ハーイ店長」
え?名前違うよね?彩実って呼ばれてない?と思ったそこのあなた!
そうです。『彩実』は私が仕事で使っている名前。
「はい。江村様〇〇ホテル201号室」
「時間はいつもの120分コース」
「いってらっしゃい」
「行ってきます!」
私は店長から部屋番号や金額が書かれた紙を受け取ると大きめの鞄を持って待機室を出た。
歓楽街に近いホテルを目指す。
ホテルといっても基本ラブホテルだ。〇〇ホテルのフロントに部屋番号を告げエレベーターで201号室へ。
呼び鈴を鳴らすとドアが開き私は部屋に入った。
「お久しぶりです。彩実さん」
細身で温厚そうな男性が出迎えてくれた。
「江村さんも元気そうね」
「お蔭様で」
江村さんとは2年位前からの付き合いだ。彼は仕事絡みでストレス溜まると私を指名してストレスを解消する。ストレスの解消法は人それぞれ…。
実は私は数年前からSMクラブで女王様をしている。切っ掛けは色々だが興味があったのと今の店長がその時は現役の女王様で少し憧れがあったのも理由のひとつだ。前の店長は実家の家業を継ぐため帰郷(元気にしているといいな)現役引退した今の店長そして数名の女王様とクラブに所属している。
私は女王様といってもよくイメージされる『背が高くて怖いという』印象はないらしく私を指名するお客様は比較的大人しめで紳士的な方が多い。『彩実様』と呼ばれる事はあまり(というかほぼ)なく『彩実さん』と呼ばれている。先輩女王様の中には『いかにも!』って見た目の人もいるがM男さんの好みは千差万別。私の働くお店では『いかにも女王様!!』って見た目でない方が好まれるそうだ(あ…この言葉は私を面接してくれた前の店長の意見なんだけどね)
お店のカラーはそれぞれ。『いかにもコテコテの女王様』が多く在籍する店もあれば『ギャル系女王様』が多く在籍する店もある。
特に関西地方ではコテコテというか濃い女王様が多い印象だ。
予約のプレイが全て終わりギャラを受け取り帰ろうとすると店長が唐突に…。
「そういえば愛理ママから連絡来たけど食蟻獣今年いっぱいで閉店だってさ」
食蟻獣とはこのクラブがある場所から電車で一駅の所にあるフェティッシュバーだ。私が新人だった頃店長と何度かおじゃましている。
「え?まさか?」
私や周りの女子が不安そうな顔をしたためか…店長は笑いながら「心配ないって」とフォローしてくれた。
「別にガサ入れとかではないの」
店長の話だと愛理ママはいずれは店を閉めるつもりでビジネス系の資格を取るため学校に通っていたそうだ。資格を取りめどがついたので店を閉めて転職すると。
「まあ愛理ママのお兄さんは千葉で介護施設を幾つか経営してるからそれを手伝う予定なんですって」
前向きな理由での閉店なら愛理ママの未来を応援したい。
「店長…閉店する前にみんなで食蟻獣に行きませんか?」
店長や周りの女子達は乗り気で約束をした。
「それにしても…ガサ入れでなくてよかったジャン!」
みんなの妹分寧音が話しに入ってきた。
そこにいる全員昨年ニュースになった『老舗SMクラブへのガサ入れ』を思い浮かべてた。
東京で4年に1度の大規模なスポーツの祭典が開催される事が決まり…それに伴い風俗店への締め付けが厳しくなった。
昨年幾つかのSMクラブが摘発されたがそれは禁止されているプレイルームや対面での受付を持っていたのが理由と言われていた。
(そろそろ私も潮時かも…)
私はこの日からいずれ来る業界引退の先の事を考えるようになった…。
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