徒花(あだばな)・・散る

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    ×  ×  ×  ×  「まるで畜生の仕業だね。」  今参局(いままいりのつぼね)を護送する一行の後を追っていた女が嗤った。  いたる所にうち捨てられた女の遺体が転がっている。  「我等を鬼と呼ぶが、人も変わらぬ・・・」  「たす・・け・・て・・・」  そこに、今にも息絶えそうな声が女の耳を捕らえた。  「おや、生き残った奴も居たのかい。」  おね・・がい・・・  傷だらけの女は自分を見下ろす女に手を伸ばした。  「苦しいかい・・痛いかい・・・  それよりももっと、自分をこんな境遇にした者が憎いかい。」  女はしゃがみ込んで、瀕死の女の顔を覗き込んだ。  「わた・・し・・が・・・何を・・した・・・と・・・」  「恨みを晴らしたいかい。」  自分を覗き込む女の顔に、その女は微かに頷いた。  「助けてやる代わりに、私の言うことをきくかい。」  覗き込む女は瀕死の女に言い、その女は頷いた。  「お前の名前は。」  そう言いながら女は自分の掌を短刀で切った。  「ま・・り・・・」  女は事切れようとした。  もう無理か・・・覗き込む女は、血の滴る自身の掌を女の口に当てた。  「飲みな・・・私の血を。」  瀕死の女はごくりと喉を鳴らした。  二人の女は、蒲生の辺りで京に帰る一番隊に出会った。  二人は、前方から歩いてきた侍達に道を開け、侍達はそのまま行きすぎた。  「終わったようだね、急ぐよ。」  二人の女は、一番隊の後ろから忽然と姿を消した。  それを不思議がったのは京ノ介だけだった。  「首の皮一枚残しやがった。」  護送隊の面々は溜息をついていた。  「それをどうする気かえ。」  女の声が護送隊の面々を捉えた。  護送隊の一同は素速く剣を抜いた。  無駄だよ・・・探索方の一人の首が血の軌跡を撒き散らしながら、空高く舞い上がった。  護送隊の侍とそれを助ける探索方の者が十人程、それらが二人の女を取り囲んだ。  一人の女は真っ赤な柄の薙刀を持ち、もう一人は脇差しを逆手に持っている。  多寡が女に・・・探索方の男がもう一人朱にまみれた。  「無駄だと言ったはずだよ。  黙って死骸を見せな。」  薙刀を持った女がずかずかと今参局の死骸に近づいた。  「見事・・・」  女であるにもかかわらず見事に腹を斬っている。  それに介錯の腕・・・  首の皮一枚を残し、苦しませぬようすっぱりと命を絶っている。  「有り難いねえ・・綺麗に皮一枚残してある。」  女はだらんと下がった首を胴体につけるように起こした。  死んだはずのお今の眼が赤く光った。  「お前等、言うんじゃないよ。」  女は唇をすぼめ何かを吹き付けた。  誰もが一様に首筋を押さえた。  「毒針だよ・・お前等が押さえたから体内に入った。」  迷い事を・・・男が一人、青ざめながらも言った。  「さて、最初に死ぬのは誰かね。」  その男の後ろで一人が血反吐を吐いて倒れた。  「この首を持って帰って、今参局を討ったと報告しな。」  女が投げ与えた首はお今にそっくりだった。  「お前達が上手く嘘を突き通せれば・・・」  女は懐から素焼きの小さな壺を取りだした・・ほらよ、と悪態をついた男に投げ渡した。  「解毒薬だよ・・・それを飲めば、体内から針が出て来る。  それが解毒の証しだよ。」  男は急いでその壺を空にした。  すると女が言ったように首筋から針が押し出され、ポトリと地面に落ちた。  「お前等、全員分ある。  まあ、上手くやることだね。」  言葉が終わらぬうちに女は薙刀を横に振った。  たった今喜んだ男の頭蓋が横に真っ二つに斬られて落ちた。  「分かったかい、要らぬ事を言えば毒で死ぬか・・こうやって死ぬかのどっちかだよ。」  そこまで言うと女はもう一人の女を連れて立ち去った。
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