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「まるで畜生の仕業だね。」
今参局(いままいりのつぼね)を護送する一行の後を追っていた女が嗤った。
いたる所にうち捨てられた女の遺体が転がっている。
「我等を鬼と呼ぶが、人も変わらぬ・・・」
「たす・・け・・て・・・」
そこに、今にも息絶えそうな声が女の耳を捕らえた。
「おや、生き残った奴も居たのかい。」
おね・・がい・・・
傷だらけの女は自分を見下ろす女に手を伸ばした。
「苦しいかい・・痛いかい・・・
それよりももっと、自分をこんな境遇にした者が憎いかい。」
女はしゃがみ込んで、瀕死の女の顔を覗き込んだ。
「わた・・し・・が・・・何を・・した・・・と・・・」
「恨みを晴らしたいかい。」
自分を覗き込む女の顔に、その女は微かに頷いた。
「助けてやる代わりに、私の言うことをきくかい。」
覗き込む女は瀕死の女に言い、その女は頷いた。
「お前の名前は。」
そう言いながら女は自分の掌を短刀で切った。
「ま・・り・・・」
女は事切れようとした。
もう無理か・・・覗き込む女は、血の滴る自身の掌を女の口に当てた。
「飲みな・・・私の血を。」
瀕死の女はごくりと喉を鳴らした。
二人の女は、蒲生の辺りで京に帰る一番隊に出会った。
二人は、前方から歩いてきた侍達に道を開け、侍達はそのまま行きすぎた。
「終わったようだね、急ぐよ。」
二人の女は、一番隊の後ろから忽然と姿を消した。
それを不思議がったのは京ノ介だけだった。
「首の皮一枚残しやがった。」
護送隊の面々は溜息をついていた。
「それをどうする気かえ。」
女の声が護送隊の面々を捉えた。
護送隊の一同は素速く剣を抜いた。
無駄だよ・・・探索方の一人の首が血の軌跡を撒き散らしながら、空高く舞い上がった。
護送隊の侍とそれを助ける探索方の者が十人程、それらが二人の女を取り囲んだ。
一人の女は真っ赤な柄の薙刀を持ち、もう一人は脇差しを逆手に持っている。
多寡が女に・・・探索方の男がもう一人朱にまみれた。
「無駄だと言ったはずだよ。
黙って死骸を見せな。」
薙刀を持った女がずかずかと今参局の死骸に近づいた。
「見事・・・」
女であるにもかかわらず見事に腹を斬っている。
それに介錯の腕・・・
首の皮一枚を残し、苦しませぬようすっぱりと命を絶っている。
「有り難いねえ・・綺麗に皮一枚残してある。」
女はだらんと下がった首を胴体につけるように起こした。
死んだはずのお今の眼が赤く光った。
「お前等、言うんじゃないよ。」
女は唇をすぼめ何かを吹き付けた。
誰もが一様に首筋を押さえた。
「毒針だよ・・お前等が押さえたから体内に入った。」
迷い事を・・・男が一人、青ざめながらも言った。
「さて、最初に死ぬのは誰かね。」
その男の後ろで一人が血反吐を吐いて倒れた。
「この首を持って帰って、今参局を討ったと報告しな。」
女が投げ与えた首はお今にそっくりだった。
「お前達が上手く嘘を突き通せれば・・・」
女は懐から素焼きの小さな壺を取りだした・・ほらよ、と悪態をついた男に投げ渡した。
「解毒薬だよ・・・それを飲めば、体内から針が出て来る。
それが解毒の証しだよ。」
男は急いでその壺を空にした。
すると女が言ったように首筋から針が押し出され、ポトリと地面に落ちた。
「お前等、全員分ある。
まあ、上手くやることだね。」
言葉が終わらぬうちに女は薙刀を横に振った。
たった今喜んだ男の頭蓋が横に真っ二つに斬られて落ちた。
「分かったかい、要らぬ事を言えば毒で死ぬか・・こうやって死ぬかのどっちかだよ。」
そこまで言うと女はもう一人の女を連れて立ち去った。
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