辻斬り

2/8
前へ
/26ページ
次へ
 加納大全(かのうたいぜん)でございます・・・やせた男が言った。  近藤十三(こんどうじゆうそう)・・・厳つい男の物言いは、ぶっきらぼうだった。  「鬼木、どう言う組み合わせだ。」  「加納殿には桜井殿、近藤殿には細貝・・この組み合わせで・・」  「どの対戦が先だ。」  中御門経衡は異様に興奮して見えた。  「加納殿、準備は宜しいか。」  その声に小柄でやせた男が立ち上がった。  相対するのはこれもそれ程風采のあがらぬ男、桜井嘉一(さくらいかいち)。  二人は蹲踞の姿勢から立ち上がり、間合いを取った。  へっ、面白くもない・・・市之丞はその様子を庭の石に腰を掛け、後ろ手に身体を伸ばして見ていた。  その横でぎりっと歯噛みの音がした。  「おいおい、その気になっているのか。」  市之丞は主水の介の顔を覗き込んだ。  勝負はなかなかつかず、「それまで。」との元治の声が響いた。  「左内、面白いのう・・・」  経衡は隣に座る自分の股肱の顔を見た。  さようで・・・左内は短く応えただけだった。  次の手合わせは、近藤十三という角張った身体の男と、ひょろりと背の高い細貝恭平(ほそがいきようへい)であった。  俺の相手は若造か・・・近藤はニヤリと笑った。  蹲踞から立ち会うと同時に近藤は打って出た。  それを恭平が捌き、木刀で受ける。  それにも構わず、近藤は木刀の上から打ち続けた。  その圧力に恭平の膝が折れた。  「力をつけろ。」  そう言って近藤は後ろを向いた。  それまで・・・元治は声を上げた。  「左内、元治。  あの二人、どう見た。」  経衡は二人に声を掛けた。  「二人ともなかなかの手練れと見ました。  特にあとからの男。」  「あの、近藤十三(こんどうじゆうそう)と言う男、統率力もあるやも知れません。」  鬼木元治、奥村左内の声に経衡はそれぞれ頷いた。  「鬼木、市之丞に声を掛けよ。  昨日行けなかった町道場へ行く。」  「推挙したのは拙者・・拙者も同行いたします。」  奥村左内も立ち上がった。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加