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「だから、しつこく電話やらメールすんのやめろよな! まったく…ブロックしても何度も何度も…」
少年は奥のソファーで彼を眺めていた堺につかつかと近寄ってくる。そして、携帯電話を取り出して受信記録の画面を突き付けた。ズラリと並んだ着信履歴。本業が探偵の堺はいくつもの番号やアカウントを用意している。
堺は少年の怒鳴り声をさらりとかわして、ローテーブルの上に並べられた酒瓶を指で示した。
「まあ、座ったらどうだ。取って喰いやしないさ。まずは…何が好みだい? 君の歳なら…安く酔える缶チューハイかな。でも、大人の世界にはうまい焼酎やいいブランデーもあるんだぜ」
「え?」
一瞬、呆気にとられたように少年に幼い表情が戻る。堺が小さく失笑した。
「お子様には味が分らないかな?」
少年の顔がさらにムムッと赤くなった。こんな年頃はちょっとしたからかいにも過敏なものだ。
「……」
どかっとソファーの向いの席に座り込むと、少年は堺を睨んだ。酒を進める教育カウンセラーなど聞いたこともないと、うさん臭そうに目の前の男を斜めに見つめる。
ことの始まりは一週間ほど前だ。堺のカウンセリングに妙齢の女性が訪れた。
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