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「近くに美容室もありますので、行ってきては。髪を切る間くらいは大丈夫でしょう」
「はい」
そうして美容室できちんとカットしてもらった。小顔ですからショートがお似合いですよ! と勧められて思いっきり短くした。
そうすると着ている服がなんだか似合わない気がした。ガーリー系が好きだったのだが、これならもう少し大人っぽいものでもいい気がする。すぐ隣に古着屋があったので店員にコーディネイトをしてもらい、屋敷に戻った。
「大変身ですねえ」
「私って単純らしくて。見た目変わったら、なんかちょっとやる気が出てきました」
えへへ、と恥ずかしそうに笑う。そして夕食を藤原とともにして、穏やかな気分で夜を迎えた。
その日の夜、久しぶりに夢を見た。葛がぐるりと自分を取り囲んでいた。そして伸びてくるが、不思議と恐怖はない。
葛の蔓はやがて束となり、細く裂けていく。それらは髪の毛となり輝夜の髪に巻き付いて、やがて輝夜の髪となる。長い長い、ラプンツェルのような髪。
目を覚ます。恐怖はない、不思議な気分だ。ふと鏡を見て驚いた。
「え?」
髪がだいぶ伸びていた。ありえない速度だ、昨日ベリーショートにしたというのに普通のショートになっている。藤原に見せるとふうむ、と藤原は考え込み。そしてこう言った。
「葛の別名をご存知かな」
「いいえ」
「かずら、というのです。髪飾りやカツラをさしますが。時には髪の毛そのものを言う時もあるとか」
「え?」
「おそらく、髪を切ったことで蔓が髪に転じたのでしょう。ほら、髪が長いと伸びている感じがしないですけど。短い髪が伸びる時はすごくわかりやすいじゃないですか? ショートの人が髪伸びるとすぐに気づきます」
「そう、いえば」
顔を見られたくなくて髪を伸ばしていた。耳の近くの毛はシャギーカットにして、俯くと顔にかかるように。後ろの髪はずっと伸ばして。
「でも、どうして」
「さあ。ただ、あなたの名前は輝夜さんですからねえ。竹取物語のかぐや姫は、竹から生まれた。葛からすれば竹に絡み付けて、しかも伸び続けられる。居心地がいいのでしょう」
とんでもない推測だが、藤原は真面目だ。そしてにっこり笑った。
「外にも出ても問題ないでしょうな。だって髪を切り続ければいいんですからね。もう蔓が向かってくることはないでしょう」
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