葛は姫に絡みたいのです

2/9
前へ
/9ページ
次へ
 ぼーっとしていたが、びくりと体を震わせた。ガードレールに絡みついた、葛。寄生する相手を求めて這っている蔓。 怖い!  一気に走り出した。蔓に追いつかれたら終わりだ。だが葛はどこにでも生えている。  走って走って、息が切れたので立ち止まって呼吸を整えた。  ふと見れば、初めてくる道だ。そして大きな屋敷があった。かなり広い、豪邸といった感じだ。庭は植物が数多く生えていて鬱蒼としている。  一瞬蔓が見えてびくっとしてしまったが。よく見れば葛ではない。なんだろうと思っていると、パチンと音がした。音の方を見れば、壮年の男性が蔓を切っていた。どうやら手入れをしているらしく、全体を眺めては蔓を選んで切っている。  ふと、男性が手を止めて輝夜を見る。 「す、すみません、じっと見て」 「んん? ああ、いいんですよ。花はまだですけど、咲いたらキレイですよここは」  にこりと笑ってもらい、ほっとする。自分に笑ってくれる人はいつも下心がある、男は特に。しかし男性は目じりの笑いじわから、普段からよく笑う人なのだなとわかる。 「えっと、何の花ですか」 「バラですよ。グラデーションになるように植えてあるんです。おや、館の主のお出ましですな」  見れば屋敷から女性が一人出てきた。輝夜を見て一瞬驚いた表情をしたが、ふふっと笑う。年は二十代半ばくらいで、目を奪われそうなくらい美しい。 「普段は追い払うんだけど、面白いお客さんだから歓迎しましょうか」 「はい、お嬢様」 「え? え?」 「あら? 私の噂を聞いて突撃してきた迷惑な客かと思ったけど違うの? ふふ、偶然来たってこと? 運命かしらね」 「どうぞ、お入りください」  不思議な二人の会話に翻弄されつつ、案内されるがまま屋敷に入った。男性がお茶をいれてきてくれて、改めて女性と対峙する。 「占い師をしているの。本名じゃなくて名乗ってる方の名前で自己紹介させてもらうわ。夕顔よ、よろしく」 「あ、坂上輝夜、です」  簡単に自己紹介を済ませると、夕顔は自分の名前を検索して見せてくれた。SNSでかなり有名らしく、一日二人限定の完全予約制、一年待ちということだった。どうしても占ってほしくて押しかけてくる者がいるらしい。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加