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ずるずると伸びて来る、蔓。ゆっくりと、しかし確実に輝夜にむかって。
あれは葛だ。春先からそこら中に一気に増える雑草。紫色のキレイな花を咲かせるが、春は葉より蔓が一斉に伸び始める。絡みつく相手を探すように、ゆらっと宙を彷徨うその姿は戦慄さえ抱く。
絡みついて、ともに高い所を目指す。そうして自分は何の努力もせずまんまと太陽の光をたくさんあびる。もし細い草木に絡みついて、重みで折れてしまっても問題ない。地面を這って別の植物に絡めばいいのだ。竹に絡めればしめたもの。丈夫で高く伸びる竹は、絶好の獲物だ。
近づいて来る、大量の蔓が。
嫌だ、来ないで。
絡みつく、足に、腕に、体に……。
どんどん首に向かってくる。
やめて、やめて!
絡まり、巻きつく。いずれ、首にも。
「!」
汗びっしょりで目が覚めた。夢。やはり夢だった。夢でなければ困る。だが、腕や足には痣ができていた。
いつの頃からか見るようになった夢。蔓の速度はゆっくりだからこそ恐ろしい。逃げても逃げても蔓は這って追って来る。寝ても寝た気がしない。不眠症となり、睡眠外来に行くようになった。
「……そっか、今日だ」
今日は薬をもらいに行く日だ。心療内科も勧められている、ストレスから眠れないのではないかというのだ。間違っていない。ストレスは、多い。
輝夜が町を歩くと皆振り返る。女優のように美しい顔立ちだからだ。この顔のせいで、友達ができたことがない。
ちょっと可愛いからって調子乗りすぎ
……調子に乗ったこと、ない
いい気になってんじゃねえよ
……いつも嫌な気分なのに
あいつといると絶対私達引き立て役じゃん、近寄りたくないよね。うっざ、消えればいいのに
……悪口言う必要はないじゃない
どうせ貢いでもらってんでしょ、男使って。ヤな奴
……どうして。どうして見た目で私という人格を全否定されなければいけないの。私が何をしたの。
まともに話したことのない奴にさえ、勝手に妄想されて勝手に悪口を言われ。勝手にいじめてくる。美しさを誇りに思っている母は「嫉妬してくる相手など気にするな」というだけだ。弱気になる輝夜が悪いと。その軋轢から、大学に行くと同時に一人暮らしを始めて実家とは疎遠だ。
大学に行けばなおさら目立つ。SNSの発達で情報交換が活発となり、あっという間に噂が広がった。
どうせパパ活してるよ
誰とでもヤるってマジ?
女丸出しにして、ほんっと性格悪い
ぼそぼそしゃべってキモイ
――もう嫌だ。どうして私はこんなに悪意を向けられるの。
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