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第九章 デート
ギィ‥‥
傷の痛みが和らいだ土曜日。
デートの日。
12:00。
何度目かのドアの開閉音を聞いた時、私は急に不安になった。
ここは石川くんとの待ち合わせのカフェ。
昔風の落ち着いた感じのお店だ。
時間間違えたかな。待ち合わせ場所が違ったのかな。
まさか事故に巻き込まれて‥‥。
約束の時間を過ぎても石川くんは現れない。
メールも来ない。
席から何度も入り口を振り返る。
注文したコーヒーはとっくに冷めてしまっていた。
ギィ‥‥。
9度目。確か9度目。今度こそ‥‥
しかし、そこに現れたのは石川くんではなく、レンだった。
「何でレンがここにいるのよ」
質問には答えず、大きな声でこう言った。
「あいつ、来ねえよ」
驚いて黙っていると、
「石川ってやつ?
あいつに伝言頼まれた。
他に好きな子が出来たから、付き合うって話はなかった事にしてくれって」
と早口で捲し立てた。
「嘘!絶対嘘!
何で石川くんがそんな事レンに頼むのよ」
「知らねえよ。
あいつ、ストーカーで、俺たちが仲良いのを知ってたんじゃねえの?
待ち伏せされていて声をかけられた」
「何でメールで何も言って来ないのよ」
「オレに言うなよ。
だいたい、デート初日に遅刻するなんてありえねえだろ?」
「あの時の話、聞いてたのね?
まだ約束の時間から二時間しか経ってないもん」
「二時間も、だろ?
連絡来てないんだろ」
「来てはないけど、
もしかして事故かも知れないし‥‥」
「ほんと、おめでたいやつだな」
カチンと来た。
「レンは私の何なの?!」
「何って‥‥友達?」
友達?
そうよ。ただの友達。
「だったら、私が誰と付き合おうが、関係ないでしょ?!」
「ああ、そうだよ関係な‥‥い」
私はレンの顔を両手で挟んだ。
ホホと口にアザ。
唇が切れて血が出てる。
それに右手首の包帯?
何で?
「何だよ?」
「これ、どうしたの?」
手首の包帯を指差した。
「ああ、これ?」
「お前を助けたから‥‥かな」
「足の怪我は?」
「足は大丈夫。大したことない。
ただ、手首はまだ」
レンが手首の包帯を見せる。
とりあえず、タオルで唇の血を拭いて、絆創膏を貼ってあげる。
「あの時、足首の捻挫だけじゃなかったっけ?
顔にもアザなんか無かったと思ったけど」
「よっぽど傷が深かったんだろうな。
後から出て来た」
なに、その言い方。
謝ったじゃない。お礼も言ったし。大丈夫って自分で言ったんだよ。
男らしくないって言うか、恩着せがましくて、あー嫌だ。
「ああそうですか。
それはそれは。ごめんなさいねー」
ちょっとムッとしてキツめに言ってやった。
「あのな。お前の為にやったのに、何で急に起こり出すんだよ。
お前のそういうとこ‥‥」
「何?」
レンは一瞬、口篭ったが吐き捨てるように言った。
「可愛げないって言うか」
そうか。そう言う事?
やっぱり可愛くないって思ってたんだ。
どうせ、私は男みたいですよ。
「はあ?
可愛くなくて悪かったわね!」
「そうは言ってない。
ちゃんとオレは雅に‥‥」
レンの言葉を遮って日頃の不平不満をぶちまけた。
「どーせ、私は男の子みたいで、可愛くありませんから!
レンは大人しくて可愛い子が好きなんでしょ!」
「まだ根に持ってんのかよ、子供の頃の事」
分かってる。
助けてもらってすごく嬉しかったのに。
何でこんな言い方しか出来ないんだろう私。
「俺の事、嫌いか?」
そう言われて急に顔がカアっと熱くなった。
「嫌いとは、言ってないけど‥‥」
「じゃあ、俺と付き合え」
「え?」
急に心臓がドンドンと飛び跳ねた。
何でレンなんかに‥‥
それに、彼と違う。この‥‥感じ。
「奢ってやるからラーメン付き合え」
「‥‥そっちか」
「そっちって?」
「何でもない」
でも、なんか、、、
何でこんなにドキドキが違うんだろう。
「付き合う」の重み?
「付き合う」に重みの違いなんてあるのだろうか。
「うん、いいけど。
でもこのカフェのメニューにラーメンは無い」
「隣のラーメン屋だ。
行くぞ、雅」
強引に私の腕を掴んで店から出た。
この強引さって、自分勝手さじゃなく、レンの強さなのかも知れない。
結局、石川くんから何の連絡もなく、デートの日は終わった。
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