8人が本棚に入れています
本棚に追加
第十二章 結婚式
新学期。
朝、制服に着替えているとレンからメールが届いた。
『今日4/1、始業式のあと教室で私と大月ほのかの結婚式を行います。必ず参加して下さい』
と書いてあった。
朝、教室でレンとほのかを見かけたが、二人が手を繋いでいるのを見て声をかけるのをやめた。
ほのかもレンもいつものように話しかけてくれない。
二人で楽しそうにおしゃべりをして、私の事なんか眼中にないようだった。
ポツンと一人、教室に残された感じ。
レンと親友が付き合うってこう言う事なんだ。
何か、大切な人を同時に二人、失った感じだった。
始業式が終わり、すんなり教室に戻らずブラブラしてから教室に行くと、机が後ろに集められており、教室から前半分、広間のように空いた場所にレンとほのかが立っており、二人を取り囲むようにクラスメイトが座っていた。
神父役の男子生徒が、マイクを持って誓いの言葉を述べているところだった。
ほのかの頭の上には手作りと思われるウエディングベールが乗っていた。
ピンクの大きなリボンの下に真っ白なベールが、天使の羽のように腰の下まで下がっている。
本当の妖精のように可愛かった。
レンは真剣な顔でほのかを見てる。
『新郎 椎名蓮。
あなたはここにいる大月ほのかを
病める時も 健やかなる時も
富める時も 貧しき時も
妻として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?』
『はい』
レンは真面目な顔で答える。
『新婦 大月ほのか。
あなたはここにいる椎名蓮を
病める時も 健やかなる時も
富める時も 貧しき時も
夫として愛し 敬い 慈しむ事を誓いますか?』
『はい』
ほのかもいつもの笑顔でなく神妙な面持ちで答えた。
目の前に現実を突きつけられている。
現実は残酷だ。
本当に、本当に、二人とも私から離れて行ってしまうんだ。
『では、誓いのキスを』
その時、私は何かに突き動かされるように、クラスメイトの輪を割って入って行き、レンとほのかの横に立った。
「雅ちゃん?」
「雅!」
二人は私に気がついて振り返った。
私は神父役の男の子からマイクを奪い取ると、スピーチを始めた。
「えっと、、今回は、
レンとほのかの友達代表としてやってきました。
ほのかは、この通り可愛くて優しくて面白くて、自慢の友人です。
レンも、頼りがある‥‥あるのかな‥‥、あるし、口は悪いけど、ほのかを守ってくれると思います。
二人はお似合いの美男美女カップルで、心より祝福を申し上げます」
友達と友達が結婚する時のスピーチって、こんな感じでいいんだよね。
でも。
潤んで来た目を誤魔化すように、ブレザーの袖で目を擦る。
「祝辞は後から聞くから、式を続けさせてくれ」
レンが制して来たが、
そんなレンを見ていると、言いようのない怒りが湧いて来た。
「でも、ほのかもよくこんな男を選んだんだよね。
色々な女の子を取っ替え引っ替えしてて心配だよね」
ポケットからレンから渡されたラブレターを出して、教壇に置いた。
「これ返す。
必要無かったね。
こんなんじゃ、誠実さなんて伝わらないけどね」
嫌味を込めてレンを見る。
「雅。何しに来たんだ。
式をぶち壊しに来たのかよ」
顔を真っ赤にしたレンがマイクを奪いに来る。
「友達の祝福に来たに決まってるじゃない」
「酷い。雅ちゃん。
そんな言い方、椎名くんが可哀想」
「かわいそう?
私はほのかの為を思って言っているんだよ」
「それでも私は彼が好きだから」
「目の前で女の子を口説いているのを見続けるのは辛いよ」
「椎名くんは雅ちゃんが思ってるほど軽くないよ」
「実際、見てないからそんな事が言えるのよ。
レンは見て欲しい時に見てくれない、そんな人なんだから」
「雅ちゃんはそうやって苦しんで来たんだね‥‥」
ドキンとした。
ほのかの言葉がナイフのように胸に刺さった。
「でもね。
椎名くんはちゃんと見てくれる人だよ。
雅ちゃんの事はね、
この顔の怪我だって、手首の怪我だって雅ちゃんのためなんだよ」
「馬鹿!それ言うなって!」
レンがほのかの口を塞ぐ。
ほのかはその手を振り払って言う。
「椎名くんは雅ちゃんを守ろうとして、
石川くんと喧嘩して怪我したんだよ」
「知って‥‥
え?
喧嘩?」
「知らなかったの?」
「だって怪我の事聞いたら、私が階段から落ちた時の怪我だって」
「後から怪我が増える訳ないよ。雅ちゃん。
石川くんって彼の学校で評判悪いみたい。
彼女を取っ替え引っ替えして遊んでいるから学校の女の子は誰も彼を相手にしないんだって。
だから他校の女の子に手を出してるって。
桜ヶ丘学園の子に何人か聞いてみたから、正しいと思う」
私を守る為に?
レンが?
「椎名くんと彼の身元調査したの。
変な男と付き合わせる訳にいかないでしょう?
って、椎名くんから相談されて。
いつだって椎名くんは、雅の事を守ってるんだよ」
『お前を助けたから‥‥かな』
あの時石川くんに会いに行ったんだ。
その時の怪我‥‥。
子供の頃、二人で遊んでいた時に転んで膝を擦りむいた時、背負って病院まで運んでくれた事を思い出した。
よろけながら泣いてる私に何度も「オレがお前を守ってやるからな」って元気付けてくれてた。
そうだ。
いつだってレンは私を見てくれていた。
階段から落ちた時も。
いつも見ていてくれたから、私を守ってこれたんだ。
なのに私はいつも自分のことばっかりで。
レンの嫌なところばかり目がいって、良いところを思い出せずにいた。
大好きなところ、いっぱいあったじゃない。
いつのまにか涙が頬を伝っていた。
止まらない。
何度もしゃくり上げては、涙が溢れ出す。
「そんな雅ちゃんにレンくんは渡せない。
私が貰うから」
「‥‥嫌‥‥」
振り絞るように声を出す。
「嫌?」
「‥‥レンは‥あげない」
全身の力を声に込める。
「私が貰うって言ってるの」
「いくら、ほのかの、頼みでも、レンは渡せない」
喉がひくついて、上手く言葉にならない。
「何で?」
唇をギュッと噛んだまま、大事なものを失う恐怖で体がブルブルと震える。
「レンくんが、好きだからじゃないの?!
違うの?!」
「 ‥‥‥‥ 」
「もう、遅いよ。
椎名くんは、雅ちゃんじゃなくて私を選んだの」
涙で霞む目をレンに向ける。
言わなくちゃ。
レンに伝えなきゃ。
この気持ち。
「雅ちゃんの本当の気持ちを教えて!
どうしたいの?」
私の気持ち。
私の本心。
初めて出会ってから持ち続けて来た想い。
笑われるとかもうどうでもいい!
レンが私の前からいなくなるくらいなら、プライドとかそんな事、どうでもいい!
「レンが好き!!
ずっと‥ずっと‥小さい頃から!!
だから、ずっとそばにいて!!
私だけ見ていて!!」
最初のコメントを投稿しよう!