第十三章 真実と愛

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第十三章 真実と愛

 急にパンパンというクラッカーの音が教室に鳴り響いた。  ビクッとして身を屈める。 「おめでとう!七瀬さん! ちゃんと告白出来たじゃない」  クラスメイトの一人が声をかけて来た。 「え?なになに」  目を瞬かせて周りを見渡すと、  その他のクラスメイトが自分を取り囲むように集まって来くる。 「七瀬さん。今日は何の日か知ってる?」  クラスメイトの女子が声をかけて来た。 「始業式がある日」 「そうじゃなくて、4月1日の事よ」 「エイプリル・フール‥‥」  ほのかが駆け寄って来て、抱きついて来た。 「ごめん。雅ちゃん」  ほのかは涙で濡れた顔を上げてじっと見つめている。 「どう言う事?」  事態が飲み込めなくて聞き返す。 「これね、全部お芝居なの」 「お‥‥芝居?」 「私達、付き合ってなんかないの。 私は椎名くんを何とも思ってないし、椎名くんも私を好きでも何でもないの。 だから結婚式なんて嘘。 全部お芝居」 「じゃあ、どうしてこんな‥‥結婚式なんて」 「椎名くんが相談に来てね。 雅ちゃんが自分の事どう思ってるか知りたいって。 だから雅ちゃんが本音を言えるように、目の前で嘘の結婚式をしたらどうかって事になって。 本当に騙してて心が苦しかったんだけど、雅ちゃんと椎名くんの為だと思って演技したの。 クラスのみんなも協力してくれたんだよ」  クラスメイトが皆、頷く。  まだ混乱している頭で聞き返した。 「何でそこまでして私の気持ちを知りたいの?」 「もう、雅ちゃんは鈍感過ぎる」  ほのかが教壇に置いたラブレターを開けて読んだ。 『天邪鬼の雅の事だから、読むなって言えば、このラブレターを読んでくれると思う。 こんな事を文字で書くのはマジで照れ臭いけど、口で言うより正直に言えるので言わせてもらう。 オレはお前が好きだ。 小さい頃、初めて会ったあの時から。 可愛いと思ったあの日から。 だから俺と付き合って欲しい。 これを読んだら直ぐに答えを聞かせてくれ。 頼む。 椎名 蓮』  読み終えたラブレターを受け取ると、食い入るように読見返した。  読みづらい、汚い字。  怪我した手首を庇って書いたのだろう。  私の知ってるレンの文字よりもっと汚いけど、  レンの文字に間違いない。  封筒に入れたのは自分で書いたラブレターの方だったんだ。 「『可愛い』‥‥」  そう書かれた文字に指を当てる。  そうだ。思い出した。  私の事、ただ一人、可愛いって言ってくれたのはレンだった。  お母さんに髪を切られ過ぎて男の子みたいだって泣いていた時も、 『可愛いじゃん』って言ってくれたのはレンだった。  それで救われた気がした。  この人は私を分かってくれる人だって。  何でだろう、こんな大事な事。  ずっと‥忘れていた。  女の子として見られて無いと思っていた。  胸に熱いものが込み上げて来る。 「そもそもね、レンに男の子と間違えられたからきっと女の子と見られてないんだと思ってた」 「オレのせいかよ」 「違うの。私のせいなの」  ほのかが申し訳なさそうに手を挙げる。 「幼稚園の時にラブレターを渡した子、覚えてる?」 「覚えてるよ。 顔までは覚えてないけど」 「あれ、私だよ」  レンと顔を見合わせる。 「おーちゃん?」  同時に声を上げる。 「そう。 雅ちゃんを男の子と間違えてたの、椎名くんだけじゃない。 結局、私がラブレター渡した事から始まったんだよね。 雅ちゃんを傷つけてしまって、ごめん」 「いいよ。そんなの」 「許してくれる?」 「もちろん」 「だったら、椎名くんの事も許してあげて」 「悪かったな。 そんなに気にしてるなんて思ってなくて」 「雅ちゃんは私の初恋の人だった。 あの時からずっと雅ちゃんが好きだったけど、私よりもっと雅ちゃんを愛してる人がここにいる」  ほのかがレンを指差す。 「両想いだったんだよ。雅ちゃんと椎名くんは。 遠回りしたね、随分と」  レンが照れくさそうに首筋をかいて横を向く。 「私ね、人のイメージと本当の自分とのギャップに悩んでて、 雅ちゃんは可愛いって言ってくれたけど、本当の私はもっと男っぽくてサバサバしてるんだ。 だけど、そんなイメージで見てくれる人はいなくて。 何で誰も本当の私を見てくれないんだろうって。 だから雅ちゃんの気持ち、良く分かる」 「そっか。ごめん‥‥。 同じ悩みを持っているのに、気づかなくて」 「ううん。いいの。 こう言う大事な事、言わなかった私が悪いの。 親友なのにね。 親友だって言わなきゃ分かんないよね」 「俺も悪かった。 もっと早く告白してればよかった。 意外にビビりなとこあるからな、俺は」 「意外に?」 「そこ、ツッコむなよ。 それから石川の事。 マジで凹んだんだぞ。 逆にあいつがクズで良かった。 気を付けろよ。 ああ言う男は世の中にいるんだから。 雅はスキがあり過ぎるんだよ。 世間知らずでスレてないからすぐ人を信じる。 そういうところががスキ、だったりするんだけど」  レンは太陽の光を遮るように顔の前に手をかざして言った。  彼が照れ隠しの時によくやる仕草。  そこも小さい頃から変わらない。  私も‥‥スキだよ。レン。 「俺が付いててやらないと、な」  レンが頼もしく見える。  今までだって陰で守ってくれたけど、これからは素直に感謝しないと。  ちゃんと言葉にして。 「泣いてたおまえ、けっこう可愛かったぞ」 「うん」  私は恥ずかしくて、小さく頷いた。
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