第七章 雨

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第七章 雨

 学校玄関の前で土砂降りの雨を見上げていた。  やっぱり降ってしまったか。どうしよう。  下校までもって欲しいと思ったけど、そう上手くはいかない。  目の端で傘を持ってこちらに歩いてくるレンを捉えた。  私はそれを無視するかのように雨の中を走り出した。  「ちょっと待てよ雅!」  レンの声を背中で聞きながら校門を走り抜けた。  会いたくない気分だった。  革靴で滑って転びそうになりながら交差点で立ち止まった。  制服ビショビショ。もう、最悪。  カバンを傘がわりに頭の上にかざしていると 、頭の上に傘が現れた。  振り向くと、石川くんが立っていた。 「石川くん?」 「オレの名前、覚えてくれたんですね?」  と、爽やかに笑った。 「どうしたんですか?傘も刺さずに走って」  濡れた前髪を手で隠しながら 「傘、忘れて。 でも、急いでたものですから」  と答えた。 「びしょ濡れじゃないですか。これじゃ風邪引いてしまいます。 良かったらコレ、使ってください」  彼がカバンからタオルを出して、丁寧に髪についた雨を拭き取ってくれた。  こんな事自然に出来るなんて、なんて紳士なんだろう。  育ちが根本的に違う、私と。  何で私なんかと。 「すみません。この前はいきなり声をかけて失礼しました。 驚かれましたよね。 アレじゃ、気持ちが伝わらないから手紙を書いて来ました」  と、濡れた手を拭きながら一通の封筒を取り出して渡された。  手に置かれた封筒を見ながら 「前にも言いましたけど、私には‥‥」  と答えたが、  誰がいると言うの?私に。  という気持ちが湧き上がって来る。  彼が寂しそうに目を伏せた。 「まあ、付き合うかどうかはアレとして、一回デートをしてからって言うのは‥‥」  彼の姿に同情してつい言ってしまった。 「有りです!全然、有りです! ありがとうございます!じゃあ今週の土曜空いてますか?」  彼は爽やかな笑顔で答えた。 「え?あ、まあ‥‥」 「じゃあ、土曜日の10時に駅前のカフェで待ち合わせしましょう」 「はい‥‥」 「傘はそのまま使ってください。 オレ、今、濡れても平気な気分だから」  と雨の中を駆け出して行ってしまった。  後ろを振り返ると、10メートル後ろに、追いかけてきたのだろうレンが傘を握りしめてこちらを見ていた。
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