第八章 訪れた春

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第八章 訪れた春

 ほのかは熱が下がったとかで二日後に登校して来た。  もちろん、ラブレターの話を報告をした。 「そんな少女漫画みたいな事あるんだね。 それで、ラブレターには何て書いてあったの?」  ほのかが目を輝かせる。    階段の上で立ち止まってカバンを手すりに乗せ、ラブレターを取り出す。   「聞いて、ほのか。 『突然のお手紙失礼します。 私があなたを知ったのは1カ月前、通学路であなたの姿をお見かけした時です。 正直、一目ぼれでした。 毎日通う通学路であなたの姿をお見かけする度に胸がときめいています。 もしよかったら、お友達になってくれませんか? 私の連絡先を書いておきます。 連絡待っています』 だって。 ようやく私に春が訪れたか。 うんうん」  私はその場でクルクルと踊るように舞ってみた。  女の子として認められた。嬉しくて、そんな気分だったのだ。 「雅ちゃん、良かったね。 でも、椎名くんの事は?」 「え?レンの事‥‥」  そっか。結局レンはあれから何も言って来ない。  やっぱり、私が告白されても何も感じないんだ。  急に浮かれた気分が一気に落ち込んだ。  回転を止める為に踏ん張った右足が滑った。   「雅!!危ない!!!」  何処からともなく声がしたかとおもうと体が宙に浮いた。 「あ‥‥」  階段の上で足を滑らせたらしい。  体が階段の下に向かって倒れて行く。  自分の体が回転しながら、ゆっくりと落ちていくのが分かる。  交通事故に遭った人が言っていたけど、車に当たってから地面に落ちるまで周りがスローモーションに見えるんだって。  何が起こっているのか分かっているのに何も出来ない。  こう言うこと?  私、死ぬの?  男の子とデートもせずに?  嫌、嫌。そんなの無理!  階段を転げ回ること数十回。  何処が上も下もわからないまま、気がつくと階段の下で倒れていた。 「イタタタ‥‥ あれ?痛くない?」 「いててて‥‥ オレが痛みを引き受けてんだよ。 早く退いてくれ」  私の下敷きになっているレンが声を上げた。  そっか。レンが階段の下で受け止めてくれたおかげで私は死なずに済んだ。  見上げると何十段も続く階段が私の前にそびえ立っている。  あの上から落ちて来たと思うとゾッとする。  ほのかが真っ青な顔で駆け降りて来た。 「雅ちゃん!大丈夫!?」 「うん」  レンが左手で私の頭を掴んでクルンクルン回す。 「痛いって」 「頭は打ってないようだな」  ホッとしたような顔をした。 「レン」 「なに?」 「‥‥‥‥ありがと」 「ああ」  レンは頭をかきながら横を向いた。 「浮ついてるからこうなるんだ。 周り、よく見ろよ」 「ごめん」 「一応病院へ行って何処も悪くないか見てもらえ」  レンはそう言って立ちあがろうとした時、いててとうずくまった。  右足首を押さえている。  捻挫したようだ。 「ごめん!大丈夫?保健室行こう」  慌ててレンの足首を摩る。 「大した事ない。 あの高さから落ちたんだ。 自分の心配をしろ」  そう言って右足を引きづりながら歩いて行った。  レンが去った後、腰やら肘やら膝がズキズキ痛み出して、自分の手足がアザだらけなのに気がついた。 「雅ちゃん。私に捕まって。 保健室行くから」  ほのかに掴まって保健室に行き、簡単な治療を済ませると先生に、一応病院に行きなさいと言われた。 「その彼に感謝しないとね」  保健室の先生は笑って言った。  ほのかの肩を借りながらそれぞれ教室に戻って行った。  体はずっと痛かったが、レンの怪我の事が気になって授業に集中出来なかった。  放課後、ほのかと病院に行ってレントゲンを撮ったが何処も悪くないという事でホッとした。
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