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「できないことをできるって言うのが子供の嘘で、できることをできないって言うのが大人の嘘なんだよ」
小一の頃、上級生との交流の時間に六年生のお姉さんが囁いたその言葉のせいで、私はやけに大人びた子供になった気がする。
四月一日の朝、普段通り軽い身支度を整えてから居間へ行くと、母がダイニングテーブルに突っ伏していた。
「みお~、私、なんか風邪引いちゃったみたい~~ごはんつくって」
この女、やりやがった。昨夜、居間で雑誌を読んでいたら急に肩を叩かれ、ピンピンした声で明日は風邪を引く予定だからよろしくとキメ顔で言い残して去って行ったのはこのことだったのか。
「仮病使わなくても、普通にやってって言えばいいでしょ」
「えー、でも楽しいでしょ? ナオはノリノリでストール掛けてくれたのに~」
「料理も兄貴に頼んだら?」
「なんか用事あるとかでさっさと出掛けちゃった~~寂しい……うっ」
「父さんは?」
「はいはいって頭ポンポンされて二度寝した。家裁行ったら味方になってね」
「はぁ……わかったよ。いつもの卵焼きでいい?」
「わーい」
仮病はいいとして、この喋り方はなんなんだ。普段からこんなだっけ?
「ごめんねぇ、子供みたいなことして」
「いや……大人でしょ」
「?」
卵焼きは我が家の朝食の定番メニューだけど、いつも父か母か兄が作っているので私は正直自信がない。つい見栄を張ってしまったけど、目玉焼きにするか? それならなんとか……いや、でも……。
「ねえ」
「ん?」
「その……横で見ててくれる?」
「はーい!」
楽しそうに寄ってくる母を見て、私も少しだけ大人に近づけた気がした。
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