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蜂も蜥蜴も
さて辰三親分は、お玉さんにちょうどいい家を探していました。六尺ほどの梅の木が植えられて、女一人でも安全に暮らせるようなところは、なかなか見つかるものじゃあございません。お玉さんも、のらりくらりと荷物をまとめておりました。
「あら、またあの蜂だわ。ははぁ、まだ次の家が見つからないんだね」
お玉さんは、梅の木に巣を作っている蜂に声を掛けました。蜂はぶぅぅんと、ひとつ輪を書いて見せると、どこかへ飛んで行きました。
この蜂、実は辰三親分を見張っているのございます。植木屋常次の騒動からずっと、陽のあるうちは辰三親分にくっついていき、お玉さんと梅の木がどこに行き着くのか探っております。今日は、辰三親分が早々に家に帰って酒を飲みだしたので、蜂も引き上げてきたところでした。
「蜂姫おかえり、首尾はどうでした?」
「梅太郎さま、あの親分は全く能なしでございますよ!お玉さまと梅太郎さまの家なんか、適当でかまいやしないとでも思っているのでございましょう!」
「それは、いったいどういうわけです?」
「空き家を見つけるのはいいんですよ。でもね谷底だとか、池のわきだとか、梅太郎さまがお嫌いな場所ばかりなんです!」
「ははぁ、なるほど。では蜂姫、明日もし親分がそんなところへ出かけて行ったら、軽く突いておやりなさい」
「あら、よろしいんですの?」
「かまいませんよ。親分さんはお玉さまにホノジだから、いいところを見せたいだけなのでしょう」
「わかりましたわ。じゃ、おやすみなさい」
蜂姫はそう言って巣の中へ入っていきました。
梅太郎がしばらく考えておりますと、陽気につられて蜥蜴が根元から顔を出しました。
「梅太郎さま、おはようございます」
「影丸おはよう。いい陽気になったねぇ~」
「はい、拙者もこうして動けるようになりまして…」
「あぁ、そうだ!影丸にお願いしよう」
「なんでしょうか?」
「お玉さまと私が一緒に暮らせる次の家を探してくれないだろうか?」
「なんと!拙者がですか?!」
「影丸は私の根元で暮らしているだろう?だから、私の好みの土の見分けがつくね?」
「えぇ!もちろん!そういうことでしたら、喜んで引き受けましょう」
「よろしく頼むよ」
影丸はちょこんとお辞儀をすると、シュルシュルとあっという間にどこかへ走って消えていきました。
お玉さんは陽のあるうちにと、井戸端に水を汲みに出てきました。夕餉の支度も、そろそろ始める時分です。ワサワサと葉を茂らせた梅の木を見上げ、ピタピタと幹を叩きました。
「辰三親分は、どうしたんだろうねぇ?あれから、全然きやしない」
梅太郎はだまって葉を一枚落としました。先ほど影丸が出て行った穴の辺りです。土が少し掘られていて、やわらかく盛り上がっていました。
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