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自分のデスクに着くなり、早速ウザい同僚が近寄ってきた。 「貴島さん、何かいつもと雰囲気違うよね。あっ、もしかしてデート?」 同僚の斎藤アンナは人のファッションやメイクにうるさい。 「実は私もデートなんだよね。 ここだけの話なんだけど、営業部の結城さんにご飯誘われてて」 そして人の話を聞かずに、すぐに自分の話にすり替える。 「西麻布の高級フレンチ行くの。あっ、絶対に言わないでよぉ」 自慢話はそのへんで勘弁。よし、最初のターゲットはお前に決めた。 「うん、言わない。だってアンタに興味ある人間なんて誰もいないもん。 私だって1ミリも興味ないし」 普段から思っていることを言ってやった。 「えっ…、何、それ、急にどうしたのよ…」 鳩が豆鉄砲喰らった時の顔を私は初めて見た。 「何って、そのままよ。自分の話しかしない人間に興味なし!」 「はぁ!?ちょっと!ふざけてんの!?」 喧嘩腰でこられると面倒なことになりそうなので、ここらへんでやめておく。 「ちょっと、何本気にしてんのよ。今日は何の日?」 「は、どういうこと!?」 「エイプリルフールでしょ?」 「あ、あぁ…!なんだ、そういうこと… もういきなりあんなこと言うからびっくりしたじゃない」 そう言ってアンナは急に魂の抜けたような顔になった。 「貴島さんがそんなこと言うわけないもんね。 もう、ちょっと!完全に騙されたわ」 私は黙ってまま、笑顔でうなづくだけにしておいた。 アンナはとにかくおしゃべりだ。人の秘密も平気でバラす。 なので、しばらく放っておくだけで、今のやり取りが社内にいい感じに伝わる。貴島は今日、嘘をついてくるぞと。 これで、私が本音を存分に言える舞台が整った。 と、次なる獲物が近寄ってきた。 濃い色のスーツに真っ白なフケをゲレンデ並に積もらせたセクハラ課長。 今日も私の肩に触れながら、キモい話を振ってくる。 「今日はなんだか色気があるね。若く見えるし。 あ、そういえば貴島さんっていくつだっけ?」 今どきこんな話を堂々としてくる人間の気が知れない。 「課長は色気違いですね。女性をつねに嫌らしい目で見てる。 あ、そういえば課長っておいくつでしたっけ?  いい年して恥ずかしくないんですか?」 私の思いがけない口撃に、ポカンとした顔をしている。 豆鉄砲顔、本日2人目! この課長はセクハラはすごいが、強く言われると弱いタイプである。 「課長、課長。ちなみに今日は4月1日ですからね」 そう言って、私は笑顔でトイレに向かった。 それからも、私の本音は止まらなかった。 自分のミスを棚にあげて偉そうに振る舞う先輩、 私語ばかりで仕事の手を抜く後輩、 優しさアピールに全力を注ぐ同期の男性社員…… 普段言えない想いを全て4月1日のせいにしてぶちまける。 「エイプリルフール」という言葉を出すと、相手も怒るに怒れない。 そんなことを本気にしたとなると、器の小さな人間と思われ、 自分が損をするからだ。 言いたいことを言いながら、 多少強引にでも笑顔で終わらすことができるのが、 エイプリルフールの良いところだ。
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