発 端

3/12
前へ
/99ページ
次へ
思えば美咲のその交流は、半年ほど前、彼女が退屈していた正月頃から始まっていた。きっかけはインスタのDMだった。同世代の女の子から彼女のアカウントにメッセージが来て、それが始まりだったと大輝は聞いている。 最初はお互いの投稿を褒め合ったりして、軽いメッセージのやりとりを楽しんだ。そのうち、近いエリアの大学に通っている者同士であることが分かり、学生トークは盛り上がった。こまめに連絡を取り合っているうちにすっかり意気投合し、遂に二人は会う約束をした。 相手の方から、「よくカフェで女子会をしているから、良かったら一緒に」と美咲を誘ったのだ。 そこまでの話は、正月明け、しばらく振りに会った際に聞いていた。美咲は新しい友達ができたと喜んでいて、その時相手の名前も聞いたはずだったが、バイト漬けでクタクタだった大輝の記憶には少しも残っていない。 大輝と美咲は同じカフェでアルバイトをしていて、一度だけその友人たちが客として来店した事があった。「おしゃれ」「素敵」「おいしい」「初めて」……。思いつく限りの褒め言葉を並べているようで、何だかわざとらしい人たちだなと思った。 そしてその後も、美咲は彼女たちと度々会っている様子だった。もともと勉強が好きな美咲は、環境や人権問題にも興味を持ち始め、講演会やボランティアに参加するようになった。詳しい内容は聞いていなかったが、あの子達と行っているんだな、と大輝は何となく理解していた。 彼女は優しくて賢く、そして誰かの為に行動できる人間だと、それが一層誇らしく思えた。 年度が変わると、大輝だけではなく美咲も忙しくするようになり、バイト先で会う機会も減っていった。そしていつの間にか、遊びに誘ってもその半分は断られるようになってしまう。不安になった大輝は、一度彼女の思いを確かめた。 「好きな人でもできた?」 思い切って尋ねてみると、「ただ、やりたい事がたくさんあるだけ」と彼女は笑った。その真っ直ぐな瞳に偽りはないと感じたし、「大輝への気持ちは変わってない」というはっきりとした言葉で更に安心した。 それで話を終わらせた自分が馬鹿だったと、今では後悔している。 それからも会う頻度は相変わらず少なく、時々バイト帰りに少し話して帰るだけだった。その頃に、金銭的な理由で、夜勤のバイトをメインに働こうと大輝は決めた。けれどカフェのバイトも辞めるつもりはなかった。なんとなく、辞めてしまえば美咲との繋がりが切れてしまうかもしれない、という不安があったからだ。 彼女のことは絶対に手放したくなかった。あの明るい笑顔に会えない日々は、ずっとどこか心細い。 心にモヤモヤを抱えながらも、しかし日々は慌ただしく過ぎていく。 その間にも彼女の人生がどんどん変化していると知ったのは、ほんのつい先日の事だった。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加