再 起

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拝啓 奈緒子、大輝 元気にしていますか? 二人にはもう連絡をしない方がいいと思い、5年が経ちましたが、私にも思うところがあり、また手紙を書いています。 でもこの手紙も、もう届かないかもしれないね。届いたところで読んでもらえないかもしれない。それはそれで仕方がない。 それでも、伝えたい。   私は遂に、長い宗教生活を終わらせました。 世間的には、目が覚めた、という状態だろうか。   今は小さなスーパーで働いています。 運良く世話をしてくれる人に出会い、この仕事を紹介してもらえて、いちから社会生活を学びなおしています。 毎日楽しく、本当にありがたいばかりだよ。   しかし、脱会してからまだ1年も経っていません。本当のことを言うと、やはり心のどこかで、すがるものを探している気がする。 だから私はその度に、奈緒子と大輝、二人を思い出すんだ。 大輝はもう立派な大人になっている。どんな姿をしているんだろう、どんな声で、どんな笑い方をするのかな?  今ごろ奈緒子と二人、楽しく食事なんかしているだろうか? それとももう奈緒子にいい人ができて、大輝にも誰か居て、4人で食卓を囲んだりしているのかな? 幸せだろうか? そうであってほしい。 それだけを、私は願っている。   本当は、願うことすら許されないのかもしれない。今更ながら、やっと気が付いた。命よりも大切な二人から離れたことこそが、真の罪だったのだと。   あの頃は、家族がいた。 職場には、好きな人間も、苦手な人間もいた。 そうして人と関わって、生活をして、満たされて、傷ついて、感謝をする。生きる意味とは、本来そういう場所にあるものだったのではないかと、今になって深く感じている。 気付くのがあまりに遅すぎた。今この手紙を書くことさえも、君たちを傷付けているのかもしれない。   本当に、申し訳なかった。   いくら後悔しても、足りることはないだろう。 私はこの罪を死ぬまで背負わなければならない。たとえ二人がそれで満足しなくてもだ。 そして私は苦しみ、血を流して、道を切り開く。これからは、自分の責任でひとつひとつに答えを出して歩いて行こうと思う。 自力で見つけた道ならば、どんなものでも納得できるはずだと、最近は思うんだ。ぼんやりとだが、それこそが、人生だという気がする。   一方的な手紙で、重ね重ね申し訳ない。 こんな言葉が腹立たしければ、この手紙は捨てて構わないよ。   でも一つだけ伝えたい。 私は死ぬまで、ふたりを愛している。 どうか、奈緒子と大輝に、たくさんの幸福が訪れますように。 それを祈ることだけは、私は生涯やめないだろう。
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