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side 匡稀
――鏡を越えてしまった。
明るい部屋のなかで、僕が最初に抱いたのは絶望だった。
今まで見ていた部屋の中に、サキの姿がなかった。
サキは僕の部屋にいるんじゃないか。
何の証拠もないのに確信めいたものがあった。
「真沙来、今日のお昼焼きそばでいい? そのあと母さん仕事に行くから……」
ノックの音に応える間もなく開いた扉から、サキが成長したらこんな風だろうなと納得できる女性が現れて、目が合った。
言い訳しなきゃと思うのに言葉が出てこない。
パクパクと酸素不足の金魚みたいになった僕をじっとみた彼女は、パッと顔を輝かせて手をたたいた。
「マサキ君?」
正解を導き出されたことに僕の方が驚いて、今度こそ本当に言葉をなくしてしまった。
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