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フライパンから肉や野菜が焼ける音と匂いがする。キッチンに立つサキのお母さんと向かい合う位置にあるダイニングテーブルの椅子に腰かけて、出された麦茶のコップが汗をかくのを見つめていた。
「匡稀君がどうのこうのって、手のこんだ妄想を話すと思っていたけど、本当だったのねぇ」
「……話を聞いてたにしても、そんなにすぐ分かるものですか」
「真っ白な服の美少年って、なかなか印象的なフレーズだもの」
「はあ」
「真沙来は……あの子は帰れるかしら」
「娘さんを巻きんですみません」
「ふふ。むしろ巻きこまれに行ったんでしょう? 想像できるわ」
よく笑う穏やかな人だ。母親って会話のキャッチボールが成り立つ人もいるんだな、と毎秒驚いてしまう。
「真沙来はあなたのこと心配してたわ。親御さんが厳しい方って」
「厳しいというか……変なんです。母親はとある宗教に傾倒していて、そこで貢献するために子どもを差し出すような人で……」
エイプリルフールの厄災や贄のことを話すと、サキのお母さんは料理の手を止め、僕の隣に座った。
「それ、匡稀君は一人で耐えてきたの? 大変だったでしょう」
「サキが……真沙来さんと会えるエイプリルフールがあったから、そのために頑張れました。話がしたい、何か贈りたいと。だから母の目を盗んで使用人に外の出来事を教えてもらったり、お菓子や雑貨を買ってきてもらったり……そうでなければ、誰とも関わらず本当に一人だったと思います」
僕の境遇を気の毒に思う使用人が、実は少なくないのだと知ったのは最近だ。手助けを頼めばできる範囲で協力してくれるのも。
でも、サキと会ってなければそれも知らないままだったと断言できる。
「厄災の正体について深く考えることもなかったと思います」
「正体?」
「予想でしかないんですが、エイプリルフールの厄災は神話を利用した、宗教関係者の犯罪隠しだと思うんです」
「……というと?」
「何度か鏡を通して物を送るうち、物によって力の消耗具合が違うと気づいたんです」
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