2人が本棚に入れています
本棚に追加
初めはほんの偶然だった。
あまりにもサキが短い鉛筆を使っているから、とっさに使いかけの鉛筆を送った時と、使用人が薦めてきた流行りのお菓子を送った時との感覚が明らかに異なったのだ。
「重さの差を考慮しても違いすぎたんです」
「原因は分かったの?」
「はい。僕が所持していたか、思い入れがあるか……お菓子でも自分が食べた事があったり、好きな物を送った時はなんともなかったので」
「それが犯罪隠しとどう繋がるの?」
「都合が悪い物を隠すのに、僕みたいな力は便利ですよね? 別世界に送ってしまえば、絶対に見つからない。……今までの贄は、自分と無関係の物を送るよう強要されて、力を無くしたんじゃないかと」
「たしかに証拠の品が無くなれば怖い物なしよね。……真沙来もそうなるのかしら。そもそもあの子に力はあるのかしら」
「あります。今まで僕らが会話ができていたのは真沙来さんにも力があるからだと思います。僕の力が強いからと考えていましたが……使い方が分からなかっただけで、真沙来さんも潜在的に力があると考えた方が自然です。だから、ちゃんとタイミングさえ合わせれば、戻れると思います」
サキのお母さんの両肩から、ふっと力が抜けた。
けれど「でも……」とすぐにまた眉をしかめ、緊張状態になる。
「匡稀君は戻って平気なの?」
「不安はあります。でも、真沙来さんは、戻らなきゃ。こんなに思ってくれるお母さんがいるのに、戻らないなんてありえない」
大きく息を吸う。元の世界、特に母親の声を思い出すと反射的に震えそうになる手を握りしめた。
「僕、今までいろいろ諦めてきたけど、真沙来さんと会う時間だけは諦めた事がない。だから絶対、これからも会えるよう、戻った後もなんとかします」
「だったらまずは腹ごしらえしないとね! 焼きそば、匡稀君の分も作ったから食べて行って!」
そう言ってサキのお母さんは僕の肩をたたいた。
笑った目尻にキュッとシワがよる様子に見覚えがあって、絶対にもう一度サキに会うんだと心に誓った。
最初のコメントを投稿しよう!