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コツン。
沈黙がおりた部屋の床に、アメ玉が一つ転がった。拾いあげてマサを見れば、同じアメ玉を口に運びながら「卒業祝い」と私の手のひらを指さした。
包みを開いてアメ玉を舌の上で転がすと、こちらの世界とは種類の違う甘さが広がった。
「ありがとう。一年ぶりだ〜おいしい」
「良かった。それと、これは高校の入学祝い」
マサが腕を振って投げる仕草をすると、一瞬の間があって小ぶりな包みが現れる。
桜色の包装紙と黄緑色のリボンに包まれていたのは、手のひらサイズの丸い鏡だった。土台が木製で、よくヤスリがけされた表面はサラサラと滑らかでいつまでも触っていられそう。落ち着いたクリーム色は品が良く、大人になっても持ち歩けそうなのが嬉しい。
「かわいい! マサが選んでくれたの?」
「ネットで買って、お手伝いさんに包んでもらった」
「すごい! ありがとう」
私たちは鏡を越えて触れ合うのは無理だけど、小物ならマサから私へ送ることができる。
会うたびにお菓子や文具を送ってくれるのは、嬉しい反面申し訳なくもある。
「私もマサにお祝い贈りたかったな」
「気にいなくていいよ。僕は高校行かないし」
行かないじゃなくて、行けないんじゃないの?
思わず聞きかけて、無神経かもしれないと口をつぐんだ。
「そうじゃなくて、私もマサに喜んでもらいたかっただけ。ねぇ、どうしたら送れるようになるかな? 修行とか?」
「……悪いけど、こうやって話せるのは今日が最後になると思う」
「え?」
この世の終わりみたいに沈んだマサの表情と暗い声が、胸にモヤがかるのを加速させ、私の心をざわつかせた。
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