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「サキの世界では嘘をついていい日だっけ。こっちでエイプリルフールは年に一度の厄日なんだ。神話レベルに昔の話だけど、世界が滅亡しかけた日で……今でもその危機がたまに訪れるから、垣間見の力を持つ者が贄になって止めないとならない」
「垣間見? 贄?」
「今みたいに別世界に繋がる力を垣間見の力っていうんだ。贄は……生贄のことだね」
「生贄!?」
「物騒なことはないよ。ただ、贄になると力を無くして普通の人になるんだ。今日は僕が贄になるから」
ポツポツとマサが語る内容が衝撃すぎて、頭の中で整理するのが精一杯だ。
「……だから、もう会えないの?」
マサはゆっくりと、けれどたしかに頷いた。
「イヤ」
何度も首を振りながら、もらったばかりのミラーを握りしめる。
「嫌だよ!」
「僕も嫌だけど……母親に逆らうと生きていけないから」
「私も一緒に頼んだらどう? ほかの人より強いなら貴重だってアピールすれば」
「……本当にごめん。足音がするんだ。さよならだよサキ」
「やだ!」
無駄だと分かってても鏡に映るマサへ手を伸ばしてしまう。
かたくて冷たい感触はいつものことなのに、それが今は寂しい。
マサの姿がボヤけていくのを止めたくて、鏡を両手で叩く。
何度か繰り返すうち、かたい鏡面をすり抜けたような感覚がした。
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