嘘発見器

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真木博士はついに「嘘発見器」の開発に成功した。 これまでも、こうした類似品は多数あったが、 どれも信ぴょう性に欠けるものばかり。 元々は、警察などが行うポリグラフ検査という 犯人しか知り得ない記憶を探るためのものとして使われていたらしいが、 それでも「嘘を見抜く装置」とは言えなかった。 仮に犯人でなくても、奇妙な機械を取り付けられて、 コワモテの警察に凄まれたら、普通とは違う反応をしてしまうからだ。 「よし、さっそく効果を試すとしよう」 博士は装置を大事そうに抱え、隣に住んでいる富口氏の自宅へと向かった。 「どうも、真木博士。今日はどうされたのですか?」 「実はちょっとすごいものを開発しまして」 「なるほど。ではまた私で実験したいと、そういうことですね」 「ええ、ぜひともご協力をお願いします」 書斎に案内された博士は、さっそく準備にとりかかった。 富口氏の頭に、何本ものコードが付いたヘルメットを被せ、 デッキのような機械と繋げる。 このデッキと繋がれている小さなモニターには、 脳派のような細いラインがいくつも映し出されていた。 「で、私は何をすれば?」 「これから私がいくつか質問しますので、全ていいえで答えてください」 「あ、それ、テレビで見たことあります。  嘘ついていたら反応が出るやつでしょ?」 「これはそういう表面的な装置じゃありません」 「どこが違うので?」 「これは深層心理に直接働きかけて、人間の罪悪感を読み取るものなのです。  どんな人間でも心の奥底では、嘘は悪いものという意識がありますからね」 「なるほど、それは楽しみだ。では博士の装置と私の心の勝負ですね」 富口氏はそう言いながら、にやりと笑った。 博士はさまざまな質問を投げかけ、 富口氏はその問いに全て「いいえ」で答えていった。 明らかにその答えが嘘と分かるものもあったのだが、 博士の装置はぴくりとも反応しない。 「なぜだ…なぜ何も反応しない…」 焦る博士の様子を見て、くすくすと笑う富口氏。 「富口さん、あなたは明らかに嘘をついていますよね?  質問の答えが全ていいえの訳はないはずです」 「はい、嘘つきました」 「ではなんでなんだ…くそっ!これは失敗作だったのか!そんなはずはない」 「あ、あの、博士…」 富口氏が何か言いたげな様子を見せたが、 博士は自慢の研究が失敗に終わったのがよほど悔しかったのか、 そのまま書斎を飛び出して行った。 「ちょっと!博士!話が… 人の話も聞かないで」 この日は4月1日。 富口氏は確かに嘘はついていたが、 エイプリルフールだったので、 嘘に対して何もやましい気持ちを感じていなかった。 当然、嘘発見器にも反応は出ない。 ただ博士はそのことを知らなかった。 研究に没頭するあまり、世間のイベントなどまるで眼中になかったからだ。 「博士には悪いことしちゃったな…エイプリルフールのこと、  ちゃんと話せば良かった」 そう言いながら富口氏は頭に装着された装置を外そうとしたとき、 嘘発見器のアラーム音がピピッっと鳴った。 「人の罪悪感を読み取る装置か。  博士、あなたの開発は確かに成功していましたよ」
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