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「お父さん、帰ってこないねぇ」
子供部屋で息子を寝かしつけながらつぶやく。
母の死も、父の死も、あまり考えないようにして生きた。
あの歌を歌って両親に会いたいという気持ちも沸かなかった。
それよりも不気味に歪んだ顔のほうが怖かった。
母もそれを怖がったのだと思う。
しかし父は......我を忘れていた。
そうして高校に進学して、専門学校に行きながらバイトをして
親戚の家に送金をして、育ててもらった恩返しをした。
資格を取って就職して、職場の同僚と結婚して、子供ができた。
男の子で名前は『翔(しょう)』
我が子は愛しいけれど、幸せとは言えない日々になっている。
夫が私に対して冷めてしまって、スナックの女性店員へと夢中に
なって、夜はほとんど家にいないからだ。
「適当な恰好ばかりしないでくれよ。
俺が稼いでるのに、みっともなく見られるだろ、
そのスニーカーだって、いつまで同じの履いてるんだよ」
職場は制服だから通勤着なんてどうでもいい。
このスニーカーは履きやすいから気に入ってる。
私は足の形に特徴があるから、履ける靴が探しにくいのよ。
「相変わらず汚い部屋だなあ、掃除する時間あるだろ、
俺より短時間勤務なんだから」
小さい子がいると、片づけてもすぐ散らかるものよ。
「あー、どうして結婚したんだっけ」
一生、幸せにするって言ってくれたよね。
「髪の綺麗な女がいいなあ」
紺の背広に別の女性の髪の毛、ついてたね。
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