雨にまつわる子守唄

5/17
前へ
/17ページ
次へ
母の母、要するに私の祖母が亡くなったとき、母は失意の底に落ちた。 友達のように仲良しな親子だったそうだ。 そんな母を懸命に励ましたのが父で、それがきっかけで結婚した。 ときに私が母を取られてる気分になるほど、父は母を愛していた。 母が亡くなってから父は食事をほとんど口にしない。 心療内科に行くようすすめても仏壇から動かない。 お風呂にも入りたがらない。 「身体に染み込んだ奈津美(なつみ)の匂いが消えてしまう」なんて 言ったときは、親戚の男性がバスルームまで引きずって服を脱がせて 無理矢理に身体を洗った。 「圭吾(けいご)は、とにかく入院させるしかないよ。 そして時間が経てば解決できる部分もあるかもしれない。 だけど真保ちゃんには高校進学も将来もあるんだ。 うちで面倒をみるよ」 叔父が、そう言ってくれた。 でも私は父を中途半端に見捨てたくなかった。 「父の入院も、私の引っ越しも、もう少し待ってください」 と、告げた。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加