雨にまつわる子守唄

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マンション七階、ベランダから見れる夜景が好き。 この部屋から離れるのは嫌だな......。 父ほどは壊れていないけれど、私だって母との思い出の詰まった 場所に居たい。 朝が苦手でギリギリまで寝てる私に、食べやすいパンの朝食を 母が作ってくれた。 料理上手な母が風邪をひいて寝込んだとき、食事が大変だった。 スーパーでもコンビニでも食事は買えるけど、母の料理に口が 慣れていたからだ。 母は私の嫌いなネギを出さないようにしてくれたけど、買うと ネギが何かしらに入っている。 頼ってばかりではダメだと決意して、母からの特訓をうけて 料理が作れるようになった。 そのおかげで、いなくなってからも食事は困らない。 「真保、そんなに台所に立たないでくれ。 奈津美の使っていた物に触らないでくれ」 フローリングの部屋に一室だけある和式部屋。 その部屋の仏壇の前で、畳に横たわる父が言った。 ダブルベッドで母と一緒に寝ていた父は、寝室に入らなくなった。 食べないせいで疲れやすくなったらしく、座っているよりも身体を 横にしてるときが多くなってきた。 そのまま眠ってしまうと、毛布をかけておく。 「大丈夫。作り方がわからなくて触れない物もあるよ」 せめて水分を取って欲しくて、私は常温の水をグラスに入れて置いた。 「真保、明日の天気はどうなってるかなあ」 起き上がり、グラスの水を父がみつめている。 「明日?雨らしいよ。友達と映画を観に行くのに、めんどいなあ」 私も元気なわけじゃない。 それを察した友人たちが、明日の土曜日は映画へと誘ってくれた。 洋画の冒険活劇もので子供向けアニメなので内容が明るい。 お父さん。 大切な人を失っても、独りぼっちじゃないよ。 どうして周囲を見ようとしないの? そのときの私には、父のことがわからなかった。
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