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父が再び歌い始めた。
叫んで阻止したいけれど、四時という時間帯に近所迷惑を気にして
大きな行動が取れなかった。
私は父の腕を引っ張ってベランダから部屋へと引き戻そうとした。
元から細い父は食事をしなくなって更に痩せていたが、どんなに
力を入れても動かせなかった。
「ほら、聞こえてくる」
父が言った。
ぴしゃり、ぴしゃり、ぴしゃり......。
「うそでしょ......」
マンションの構造として雨音があまり響かない。
そこに、雨音とは違う一定の音が窓の外から近づいてくる。
「奈津美の履いていたフラットな靴の足音だよ」
「そんなわけないでしょ!ここは七階なのよ!」
だけど音は、どんどん大きくなってくる。
父は再び歌い出した。
そして......。
「圭吾さん、真保......」
母の声が、聞こえてきた。
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