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 ルルーナはカーサリアルの笑い方は自傷で、自分で自分をあざけ笑うような感じがした。 「殿下の笑い方が……なんだか怖いですわ」 「そう? 普通だと思うけど」  先ほどとは違い目を細めて笑うカーサリアルに、ルルーナは何か傷付くことばかりあったのかと勘付く。これ以上は彼の心の中を見てしまいそうで、これ以上話を聞かずにいようと植物に目を移した。 「うらやましいです。どこで採れたのか教えていただけませんか?」 「ん? ここにある植物? えーどうしようかな? 定期的にルルーナ嬢がここへ、お茶に来てくれるなら考えてもいいよ」 「お茶? ですか」 「うん。お茶とデザートはこちらで準備する。ルルーナ嬢は手ぶらで来ていいからさ」  王族のカーサリアルなら、よい茶葉を使用しているはず。美味しい紅茶とデザートに惹かれるし、植物について教えてもらえる。ルルーナは婚約者の事を忘れ「はい、お伺いいたしますわ」と、二つ返事で返した。  なんの躊躇うことなく返事をしたルルーナを見て、カーサリアルは嬉しくて、今度は顔をにやけさした。 「元気な返事のルルーナ嬢には、特別な書物も読ませてあげる」 「特別な書物? まあ! それはなんですの」  このルルーナの食いつきように、カーサリアルは楽しくて仕方がない。彼女といると楽しくて、自分が狙われている事すら忘れてしまう。  初めて信頼している人しか入れない屋敷へと、ルルーナとメイドをいれた。そして――ササ、側近しか入れない自分のテリトリーに、ルルーナを招待した。ルルーナは案内された部屋に、散らばる書物に目を丸くした。 「まあ、すごい本の山! え、魔導書? 植物の本?」  カーサリアルしか興味がない本を手に取り、瞳を輝かせたルルーナに、カーサリアルはいま以上に惹かれた。 (可愛い。このまま、そばにいて欲しいな)  ――そう、それがいけなかった。  カーサリアルは狙われているのは自分だけ。だが心配だからとルルーナが来る日は魔法をかけて、信頼する人以外、誰も自分の屋敷へと近付けなかった。だから何も起こらないと思っていた。  ルルーナが2日おきに、ここへ通いはじめてひと月が経った。 「ルルーナ嬢今日は天気もいいから。お茶を飲みながらテラスで本を読む? それとも庭いじり?」  2回目に訪れたルルーナは汚れてもいい服を持ってきた。話を聞くと庭いじりをしたいと言い出す。なんでも自分の温室がもうすぐ完成するから、庭を見たいと言った。  可愛く、面白いルルーナと庭いじりをして、書物を読みながらテラスで過ごす。カーサリアルの部屋でルルーナが知りたい書物について話す。彼女と、あたりまえの時間を送っていた。  本日、屋敷へやってきたルルーナは。 「カーサリアル殿下とお茶と庭いじりですか? では今から、殿下とテラスでお茶を飲みながら書物を読んで。それが終わったら庭いじりがしたいですわ」  と笑った。 「わかった。シルシアお茶の準備をお願いするよ」 「かしこまりました。カーサリアル殿下」  テラスに準備されたティーセット。これはカーサリアルが信頼していたメイドの淹れたお茶だ。そのメイドが淹れた紅茶を飲んだカーサリアルは毒だと気付き、メイドを氷で拘束し、ルルーナの紅茶を魔法で凍らせたが、ゴクッとルルーナは飲んでしまった。 「あ、ああ……ルルーナ! いますぐ、その紅茶を吐け!」 「え、カーサリアル殿下? どうなさった――の? え? ゴッ、ゴホ、ゴホ……」  目の前でルルーナが咳き込み、血を吐いた。 「ルルーナ!」  愛しい、誰よりも大切にしたいルルーナ。  ――前のように、俺の側からいなくなってしまう。
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