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 紅茶を飲み血を吐いたルルーナ。カーサリアルは近付き、悲痛な声をあげ抱きしめた。  だが肝心のルルーナは。  ――ああ、舌がビリビリ痺れ、胃痛がズキズキして即効性の毒。こ、これはいままで体験したことがない、新しい毒だわ。新しい発見にルルーナは喜びそうになるが、いまはカーサリアルの腕の中。綻びそうになる口元を噛み締め、プルプル震わせた。  それが毒に苦しむ姿に見えたのだろう。カーサリアルは自分も毒を飲んでお辛いはずなのに、ルルーナを見て、いまにも泣きそうな病状を浮かべている。  ――カーサリアル殿下、大丈夫ですわ。 「シャロン! オミナル草とスロン草の粉末、薬包紙が欲しいわ」 「ササ、俺の薬棚14番と25番の薬草瓶をここへ持ってきて、あと薬包紙もだ」  二人同時に声をあげた。 「「え?」」  ルルーナの毒に対しての的確なメイドへの指示に、カーサリアルの細い瞳が開く。それは自分が今、ササに伝えた薬草と同じ薬草をメイドに伝えて、ルルーナ自身も背もたれに置いた、自分のポーチを開け変わった道具を出したからだ。  ――なぜ? ルルーナ嬢は毒で苦しまない。  普通の令嬢ならば、毒でやられた驚きと胃痛で苦しむはず。冷や汗は流すものの、平然としているルルーナに、カーサリアルは驚きを隠せなかった。  あまりの驚きに魔力が漏れ、部屋の温度を下げるほどに。 「殿下! 腕輪で魔力を制御していますが漏れています。ここを凍らせたくなければ落ち着いてください!」 「え? あ、ああ――すまない」  フウッと息を吐き、カーサリアルは自分を落ち着かせたが。目の前でメイドから薬草を受け取り、淡々と薬草を調合するルルーナに驚きと面白さで、カーサリアルは喉の奥でクッククと笑った。 (俺の初恋の子はこんなにも可愛くて、面白い。早く、婚約者から奪いたい。俺のそばにいて欲しいなぁ)  カーサリアルは黙々と解毒薬を作る、ルルーナを見つめた。 「ルルーナ嬢、一つだけ言ってもいい? スロン草をあとひと匙入れるともっと効くよ」 「そうなのですか? 舌にピリリと感じた毒だからですか?」  いいことに気付いたと、カーサリアルは頷く。 「そう。それのほかにスロン草は浄化草とも言われていて、毒を体の外に出してくれる。空気のよどみ、気分がすぐれないとき、紅茶に淹れて飲むといいよ」  そう伝えた、カーサリアルをルルーナはキラキラとした、尊敬の瞳で見つめてくるルルーナに鼓動が早くなるのを感じた。 「スロン草にそんな効能があったのですね、知りませんでしたわ。本の量、屋敷前の畑、カーサリアル殿下は薬草に付いてお詳しいのですね」 「ああ――」  カーサリアルはその後の言葉が出なかった。子供の頃から、常に第一王子と王妃に命を狙われていて……嫌でも、カーサリアルは毒について詳しくならなくてはならなかった。 (いまの俺があるのも。この屋敷の主で、薬師として雇われていた、ガゴじじのおかげなんだよな。まあ、習っていくうちに趣味にもなったんだけど……) 「魔法も使えて、薬草にも詳しいなんて……素敵。私は魔法も、薬草も、まだ趣味の領域、まだですわ……許されるなら、もっとお側で習いたい」  解毒薬を作り終え、しゅんと肩を下ろすルルーナだが、カーサリアルは別の言葉に顔を真っ赤にさせた。  お、俺が素敵⁉︎  俺の、そばに居たい!    顔を赤くさせたカーサリアル殿下をみて、側近のササは慌てた。まずい――このままでは魔力を抑えられず、部屋全体を凍らせてしまう。  ――それは命の危険!   「カーサリアル殿下、解毒薬をお飲みください」 「そうです。ルルーナお嬢様もお飲みください!」  カーサリアルとルルーナは毒に慣れすぎていて、毒の進行が遅く気付いていない。二人は平気で話してはいるが、二人の顔色が徐々に悪くなっている事に。 「「ゴフッ!」」 「「早くお飲みになってください!」」
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