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明け六つシンデレラ
ゴーン・・・
まだ暗い中、時の鐘が鳴りはじめますと、男の声が、聞こえたのでございます。
「いけねぇや、もう帰らねえと」
「新次郎、どうした。帰るって、おまえここの者じゃないのか」
「すまねぇ、利長さま」
「おまえ、いったいどこの誰なんだい」
「それは、言えねぇ。おまえさまの迷惑になっちまう」
「ああ、何を言うんだ新次郎。私はおまえ無しではもう、こんなところ」
「たった一晩、一緒にいただけじゃねぇか、すぐに忘れるさ。あんたは偉ぇお侍さんだ、俺とは身分がちげぇや」
「お待ち、あぁ、お待ちったら、これ、新さんっ」
夜着のまま回り廊下に出ると、庭の木の下に雪駄が片方落ちているのが見えます。
若年寄・遠藤利長様はその雪駄を懐へしまい、また床へ戻ってまいります。
「新次郎や、必ずおまえを見つけ出してみせよう」
利長様はそう言って、よよと泣くのでありました。
明け六つの鐘が鳴り終わり、すぐそこまで夜明けが近づいた時分のことにございます。
End
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