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２ー４ トラウマ
「なんなんだ？あの女！」
俺は、寮の自分の部屋に戻るとどすんとソファに腰を下ろした。
ロタが素早くお茶の入ったカップを差し出す。
「まあ、ちょっとあれですけどオルナム様のこと、愛しておられるのでしょう」
「はぁ？」
俺は、信じられないものを見るような目でロタを見た。
あれが愛？
俺は、低くうめいた。
いやいや。
俺は、あの王女殿下に言われた言葉を反芻して背筋が寒くなる。
『婚約を取り消して欲しいそうだな、オルナム』
王女殿下は、俺にささやいた。
『これ以上そんなことを言うなら首輪をつけて城の牢獄に閉じ込めて飼わなくてはならんな』
俺は、あの薄暗いカビ臭い牢獄を思い出して体が震えるのを感じた。
あの地下の牢獄。
あそこに俺を閉じ込めて犬のように首輪をつけて飼うというのか？
俺は、震えを止めるために両腕に爪を立てた。
うっすらと血が滲むのを見てロタが目を見開いた。
「オルナム様！」
俺は、処刑されたあの日から再び生き直し始めた。
取り戻した前世の記憶のおかげか、あんな目にあわされたにしては、ひどいトラウマもなく過ごせている。
それでも。
ロタは、俺が時々夜中にうなされて飛び起きることがあるのを知っている。
もちろん俺は、ロタにも一回目の人生については、何も話してはいないし、ましてや前世のことなど教える気もない。
それでも聡い俺の乳兄妹は、あの日を境に俺が変わってしまったことがわかっている。
わかった上でロタは、俺を受け入れてくれていた。
ロタは、自分を傷つけている俺をそっと抱き締めると優しくささやいた。
「大丈夫。大丈夫です、オルナム様」
ロタは、歌うように繰り返した。
「もう、大丈夫。ロタがついています」
そうして、ロタは、俺が落ち着くまで抱き締めてそっと背を擦ってくれた。
俺は、ふぅっと吐息を漏らすとロタに微笑んだ。
「すまない、ロタ。心配させて」
「何を言ってるんです」
ロタは、少し頬を赤く染めて体を離すと俺から視線をそらした。
「私のオルナム様の心配をしなくて誰の心配をするというんです？」
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