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1ー5 失われた時代
俺の言葉をきいた母上は、無言だった。
父様がとりなす様に優しく父上に話した。
「しばらくオルナムの好きなようにさせてやったらよいのでは。オルナムももう10歳です。すぐに自分が女にはなれないこと、理解するでしょう」
母上は、立ち上がると俺の部屋から出ていった。
母上は、去り際にこう告げた。
「オルナム、剣の道を選ぶこと、後悔するな」
その日から、母上は、俺を女のようにあつかった。
家に使える騎士団の訓練に参加させ、剣の鍛練をさせてくれた。
騎士団長のライザは、俺のあつかいに困りながらも俺に剣を教えてくれた。
また、母上は、俺に魔法の教師もみつけてくれた。
この世界では、男は、魔法を学ばない。
学んだとしてもちょっとした生活魔法程度だ。
徹底して女は、男を守る。
だが、俺からすればそれは、ただの束縛としか思えなかった。
だって、おかしいだろう?
かつて、俺がローだった頃には、男も女と同じかそれ以上に認められていたのだ。
戦場で魔物などの敵と戦うのはほとんどが男の仕事だった。
それが、なぜ、男は、女の所有物のようになり、ただ守られる存在に成り果てたのか。
それは、ローが死んだ後の100年の間に起こったことだった。
300年前、何かが起こった。
そのために世界は、変わった。
それは、間違いがなかった。
しかし。
ローが死んでからの100年は、失われた時代だった。
この時代のことが書かれた歴史書は、探しても見つからなかった。
家庭教師の先生も、この時代について書かれたものはないと俺に話した。
その家庭教師の先生は、珍しいことに男の先生だった。
女が男を囲い込むことが当たり前のこの世界においては、独立して働いている男は、珍しい。
なんでも若くして妻と死に別れたのだとか。
普通、そういう男は、後夫になり再婚する。
だが、先生は、亡くなった妻に操をたてて独身を貫いていた。
先生は、線の細い美しい男だ。
望めばいい再婚話もいくらでもあっただろうに。
実際、家で働きだしてからも再婚の話は、降るようにあった。
それらをすべて断り、先生は、教師を続けている。
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