1 転生ですか?

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 1ー6 悪食  俺が剣と魔法を学び初めて一ヶ月がすぎた。  たった一ヶ月のことだが、俺の剣士としての成長は、騎士団長たちも目を見張るものがあった。   魔法も。  先生が作り出した疑似魔物ぐらいならなんなく倒せる程度の魔法は使えるようになった。  「惜しい」  騎士団長のライザが母上に話していたのを俺は、たまたまきいてしまった。  「オルナム様が女であったなら、きっと後世に名を残す騎士となられたことでしょうに」  だが、それをきいた母は、にっと笑った。  「女だったら、か」  母上が何を思ったのかは、俺には、わからない。  だが、その日から、母上は、俺をこのエルガーナ辺境伯家の跡取りとして扱うようになった。  俺は、兄たちとは違い、母上の執務室に入ることも許されるようになった。  母上は、剣と魔法の鍛練の合間に俺に領地経営の基礎を教え始めた。  母上は、他の女たちに比べても頭一つ抜きん出るほどの大女だ。  筋肉質で家宝である人の背丈ほどもある大剣を軽々片手で振り戦場で敵を狩る生まれながらの戦士だ。  しかし、醜いわけではない。  母上は、美しい女だ。  世間でも、母上のことを銀髪の美丈夫として噂していた。  だが、母上は、美丈夫としてより変わり者として有名だった。  それは、父様のことが原因だった。  普通、この世界では、力のある女は、何人もの男を囲っているものだ。  しかし、母上は、違う。  母上は、子供の頃より婚約していた父様以外の男をたぶん知らない。  父様もおそらく母上以外の女を知らない。  お互いに初めての女であり男であった。  そんな夫婦は、珍しいのだと先生は教えてくれた。  貞操を重んじた教育を施された貴族の男ですら、結婚前に一度は、妻となる女以外の女に抱かれる。  それは、妻との初夜に備えてのことだった。  大切に育てられた男たちは、初夜に何をするのかも知らない者が多く、初めての時に女にうまく抱かれることができないことがよくある。  それを防ぐためにも男は、世慣れた女によって初めての体験をすましてから婿に行くのだ。  この初めての相手を勤める女は、大抵は、男の身内、叔母か、義理の姉であることが多い。  こんな風潮がある世の中で、母上と父様のようなお互いが初めての相手である夫婦は、珍しい。  まあ、父様が絶世の美男子とかなら、世間も母上のことをとやかくはいわないのかもしれない。  だが、父様は、世間一般で言うような美男子とはほど遠い外見をしていた。  背が低く、色の白い儚げな男が好まれる世界において父様は、醜いと呼ばれる部類の男だった。  なにしろ、父様は、背が高い。  母上と同じぐらいか、少し高いぐらいだ。  それだけでも引かれるのだが、さらに、父様は、母上ほどではないが全身ががっしりとしていて筋肉質だった。  そして、世の男たちが家の中で刺繍など嗜むことを楽しむなかで、父様の趣味は、畑作りだった。  要するに父様は、すべてにおいて規格外の男なのだ。  それゆえに、母上は、悪食と噂されていた。  つまり、男の趣味が悪いってことだ。  
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