23人が本棚に入れています
本棚に追加
1ー7 女とは違います。
だが、俺は、父様がこの世界で一番のいい男だと思っている。
それは、俺が前世で男の中の男と呼ばれる騎士ローだったからというわけではない。
父様は、本当にいい男なのだ。
父様は、かつてこのエルガーナ辺境伯領が隣国であるバザーラ王国によって攻められ、母上の率いる辺境伯軍が孤立したときに領地に残された年老いた女たちや男たちを鼓舞して立ち上がり夜陰をついて糧食などの物資を届けたことがあった。
男たちによって命がけで届けられた糧食や、武器によって女たちは、奮い立った。
何より、戦場に愛しい男たちが駆けつけたことが女たちの魂をたぎらせたのだ。
その頃、俺は、まだ幼く前世の記憶も当然目覚めてはいなかった。
だが、後に兄上たちからその時の話しは、何度もきかされた。
この話しは、吟遊詩人たちの手で歌われることになり、ルシナード王国中の民の心を震わせた。
まあ、俺は、そんな勇ましい父様よりも普段の優しい父様が好きなんだがな。
そして、母上や父様のような夫婦に将来なれるような相手をみつけられたら、と思っている。
だが、今の俺には、そんなことより宰相たちの手から家族を守ることの方が大切なことだ。
そのためにも俺には、力が必要だった。
俺は、がむしゃらに剣と魔法の鍛練を続けた。
かつて俺は、伝説にもなっている騎士ローだった。
剣も魔法も、俺にとっては、容易いことだった。
しかし、今の俺に必要なのは、中途半端な力ではない。
すべてを凌駕するほどの力。
圧倒的な力を俺は、欲していた。
毎日は、確実に過ぎていく。
俺は、焦っていた。
敵がいつその手を伸ばしてくるかもわからないのだ。
そんな俺に先生は、困惑した様子で話した。
「あなたは、その年の男の子としては、十分すぎる程お強いのですよ、オルナム様。いったい何を焦っておられるのです?」
「俺は、ただの男にすぎません」
俺は、先生に答えた。
「女とは違います。こんな男の俺が世間に認められるには、どれだけ力があっても十分とはいえません」
最初のコメントを投稿しよう!