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1ー9 スタンピード
俺は、竜馬の背に乗ってあくびをしていた。
「オルナム様、もっと気を引き締めてください!」
ロタが俺に厳しく言い放った。
俺は、ぐっと背筋を伸ばした。
「わかっている。ちょっと、昨日、寝不足だっただけだ」
俺たちは、魔物の住む森へと向かっていた。
最近、エルガーナ辺境伯領の領都アルディスの近くの森に魔物の群れが現れ街道を行く商人たちが襲われることが何度もあったため、母上たちが魔物討伐に出ることになったのだ。
俺は、少し、胸が高鳴っていた。
今生では、初めての実戦だ。
恐怖よりも期待が俺の胸を占めていた。
俺とロタは、母上の率いる騎士団の中央で周囲を騎士たちに守られていた。
だが。
俺は、腰に下げたずっしりと重い剣に触れた。
今朝、家を出る前に母上がくださった剣。
わがエルガーナ辺境伯家に伝わる業物を母上は、俺の初陣にくださったのだ。
今生では、真剣に触れるのはこれが初めてだ。
今まで稽古では、木剣しか使っていなかった。
それは、俺が男だからだ。
母上がこの剣を俺にくださったということは、母上の意思表示だった。
母上は、俺を女と同等に扱うつもりなのだ。
俺は、それが嬉しかった。
俺は、今日の魔物との戦いで必ず、母上の期待に答えてみせる。
俺がそう決意をしていた時。
「魔物、だ!」
誰かが声をあげた。
周囲に緊張が走った。
まとまって移動していた俺たちの前から地響きが近づいてくるのがわかった。
「スタンピードだ!」
それは、魔物の暴走。
もし、ここで食い止めなければ俺たちの後ろにある町や村が魔物に蹂躙されることになる。
母上がすらりと長剣を抜いた。
「来るぞ!」
女たちが雄叫びをあげる。
俺も剣を抜く。
前方から魔物の大群が近づいてくるのが見えた。
「坊っちゃん、怖かったらあたしたちの後ろに隠れててくださいよ」
騎士団の連中がにやっと笑った。
俺は、剣をかまえると騎士たちを睨んだ。
「ぬかせ!」
俺は、竜馬の腹にけりを入れると駆け出した。
「オルナム様!」
ロタが慌てて俺の後を追ってくる。
ロタも剣を抜く。
俺たちは、魔物たちに向かって突き進んだ。
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