レーサー

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『さてここで、美咲選手がトップを走り続けている。おぉーーとぉここで真菜選手が追い付こうとしている!さて手に汗握る勝負一体どっちが勝つのかぁー!!』 悟志が暑苦し…熱い実況の中、私たちレーサー部…という名前のラジコン部は白熱した盛り上がりをしていた。 私は美咲、三人しかいないこのレーサー部の部長をしている。小さなころから兄の影響でラジコンにはまっており、たくさんのラジコンを持っている。その中でも、ツーリングカーである、M-SD6という車を愛機にしている。もちろんオフロードも好きであり、その時はラリーカーの、GWG-125という車を使っている。 そして私と一緒に戦っているのは真菜。真菜はオンロード専門のレーサーであり、ドリフトスペックのHU-46という車を使っている。 そして悟志。私の幼馴染でオフロード専用のレーサー。でも、基本的にオンロードばかりするからこうやって実況役が板についてきている。 私のカートと真菜のカートの距離が縮まる…300…200…100…そしてとうとう私のカートが抜かされた。 『ゴール!!勝ったのは、真菜選手だー!!』 私も真菜も悟志も終わった瞬間はぁはぁと息切れていた。 「さすが真菜だね。今日こそ勝てると思ったのに」と私は言った。でも真菜は、 「…別に」とだけ言ってどこかに去っていった。 「なぁ真菜(あいつ)どうしたんだ?」と悟志が聞いてきた。 「いや…わからない」と私は返した。でも、私たちは次の日すぐにその原因が分かった。 次の日私が最新作のカタログスペックを読んでいると、教室に先生と真菜が入ってきた。 「えーっと。唐突ですが真菜さんが転校することになりました」と先生が言った。私は驚いた。悟志の顔は見えなかったが、おそらく驚いているだろう。他の人もざわざわしているが、真菜は何か遠い目をしていた。 私は部室に行ったが、そこには真菜はいなかった。 (最後に…話したかったのに…)と私は涙を流しながら思った。 そして私はカバンを背負って、帰ろうとしたとき外から車の音が聞こえた。 私が外に出てみると、そこにはオフロードカーのクローラーを走らせている真菜の姿があった。 「真菜、何してるの?」と私が聞くと、 「…オフロードの練習」とだけ答えが返ってきた。私はそっかとだけ返し、それからオフロードカーがガタガタと揺れている音だけが聞こえた。そのまま五分ぐらい経過したとき唐突に真菜が口を開いた。 「引っ越しのこと黙っててごめんね」 「ううん大丈夫」 「私さ、本当はオフロード極めるつもりだったんだ」 「え?」 「私、本当はこうやってオフロードで車を走らせたかった。美咲と悟志くんと一緒にドライブに出かけたかったの。でも…私は普通の車には乗れない。塗装されたオンロードにしか乗れなかった。だから…」そこまで言うと真菜は泣き崩れながらこう言った。 「美咲…私…引っ越したくないよ!!二人と一緒にオフロードを走りたかった!でも…私の人生はオンロード…ずっと障壁のない道でしかない…「出かけられるよ」と私は真菜の言葉をさえぎっていった。 「確かに真菜は今は障壁のない道(オンロード)なのかもしれない。でも私は、いつか真菜と…悟志も一緒に広大な世界(オフロード)を走れるって信じてる!だからその時までに絶対にレーサーをやめないでね」と私が言った時、私のラリーカーが走ってきた。そしてそこには、オフロードカーのオフローダーを片手にラジコンを操縦していた悟志がいた。 「…たく、そういうのはオフロード専門の俺にも声かけてくれよ。せっかく貴重なオフロードなのによ」と悟志は口を尖らせながら言った。 「で、どうする。レースをするのか?」と悟志は私に聞いてきたが私は首を横に振った。 「今日は真菜の初オフロードの日だから今日は普通に走らせるよ」と私は言った。 私たちは三人でこの小さな世界を走り回っていた。 「ねぇ美咲」と真菜は私に話しかけてきた。 「なぁに真菜」と私は聞いた。 「私たち、また一緒に走れるのかなぁって思ってさ」 「走れるさ」と悟志が言った。それに私が重ねて言う。 「オンロードは決められているけど、オフロードはこうやって世界中走らせている人が全員レーサーだから。大丈夫」 「…さすがにそれは言いすぎでしょ」と真菜は口では言いつつも泣いていた。その時、真菜のお母さんが迎えに来た 「じゃあ、また…」と真菜が行こうとしたとき、 「あ、待って」と私は真菜を引き留め、そして、クローラーを渡した。 「…いいの?」私は首を縦に振る。悟志も同じだった。 車はガタガタと言いながら、次のステージまで選手を運んで行った。
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