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「ほ…本当にいいですか?」
「ええ、バッサリ切ってください。」
『髪の毛が売れる』と知った私は、ウィッグをつくるお店へ乗り込んできた。
粟色の髪はあまり高くは売れないみたいだけど、お金になるなら何でも良いわ。質屋のオープンまで、ここに隠れていられるしね。まさか、貴族の女が髪を売るなんて想像もしないと思うから、隠れるには最高よ。
「こんなに切って本当に大丈夫でしたか?」
「ええ、綺麗に切ってくれてありがとう。」
髪の毛を切ってショートになった私は、男の子に見えなくもない。
これは、変装としても成功だわ。あとはブローチを売れば完了。もう王都に永遠に用はない。
質屋まで走っていると、大きな馬車とすれ違った。
「ねぇお嬢さん、何をしてるの?」
「え?」
わざわざ馬車を止めて私を呼び止めたのは、綺麗な金髪碧眼の男。年齢はリアムと同じくらいかしら。
「君のように可愛い子が1人で出歩いたら危ないよ。俺が家に送ってあげようか?」
「朝の日課の散歩ですので、気遣いは無用です。」
その馬車に乗る方が、王都を歩くよりはるかに危険だしね。
「お嬢さん、リアムの義姉さんでしょ?ハンストン伯爵夫人。」
「人違いです。」
この人、どうして私の事を知ってるの。結婚の話はおおっぴらに進めてはいないし、式は身内だけだったから、私を一目見て伯爵夫人だと解る人なんて殆んどいるはずないのに。
「そうだ、名前は確かクレアだ。」
「私はマロンです。」
ここは、偽名で乗り切ろう。
「うん、髪型も髪色もまさにそんな感じだね。」
「……」
髪型を栗扱いって、無神経にもほどがあるでしょ。
「名前です。」
「クレアでもマロンでもいいんだけど、答え合わせは俺の家でリアムにしてもらおうか。」
「どうして私が貴方の家に行く事になるのよ。それに、リアムなんて人は…」
「俺の家、あれね。」
「……」
男が指差した方向にある建物は霧でうっすらとしか見えないけれど、あきらかに王城。
「俺、あの家の三男でリアムの友人のライリー。これから、仲良くしてね。」
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