逃亡します

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 夕食の席でも会話はないし、リアムの無表情が怖い。 「リアム様は私と違ってお忙しいでしょうから、気を使って食事の時間をあわせてくださらなくても大丈夫ですよ」 「どんな時も、家族揃って食事をとるのが伯爵家の仕来たりですから」 「それは、素敵な仕来たりですね」  そう言う事は、仮病の兄を連れてきてから言って貰いたいわね。  まぁ、これからは仕来たりなんて関係ない。私にはこれが、伯爵邸での最後の晩餐よ。  明日からは豪華なご飯は食べられないから、味わって食べよう。  ん?  何だかリアムに見られてる気がする。とくに変な食べ方はしていないと思うのだけど。 「何か?」 「ワイン、飲みませんか?」 「いいえ、結構です」 「苦手ですか?」 「はい……」  そういう事にしておこう。 「兄とはよく飲んでいましたよね」 「そうですね……」  リアム本人は見ていなくても、使用人から伝わっててもおかしくはないよね。 「一杯だけ、付き合って貰えませんか?」 「明日の為に控えた方がいいんじゃ……」 「嫌ですか?」  この、微妙な圧しの強さはなんなの。 「少しだけなら」  まぁ、いいわ。私はザルだもの。少し飲んだくらいじゃ酔わないし、脱走にも支障はでないしね。  出されたワインはとても美味しい。  料理も美味しいし、お酒も美味しい。貴族としての最後の日、全てから解放されると思うとさらに美味しい。  1杯と言いつつ、既にグラスに3杯飲んでいる私。これから当分お酒なんて飲めないと思うし、1杯付き合うなら3杯でも同じよね。 「……リアム様、大丈夫ですか?」 「大丈夫だよ」 『大丈夫だよ』って……『だよ』って言いましたよ…この人。しかも笑顔で。もしかして、酔ってる? 「リアム様は何杯飲んだの?」 給仕に聞くと『1杯です』と返ってきた。 お酒弱すぎでしょ!! 明日、国王と謁見なのに、何考えてるのこの人!! 「もう食事は終わりにして、リアム様は部屋で休んでください」  ウトウトし始めてるし!!  もしかして、薬でも盛られてたんじゃ――ううん、それはないわね。もし命を狙ってたなら、睡眠薬じゃなく毒を入れれば成功していたもの。  リアムが寝てくれれば脱走もやり易くなるし、私としてはありがたいけどね。
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