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その夜、おとなしく寝たふりをして、夜中の2時に脱走スタート。
2階から1階の部屋へ素早く移動して夜明け前まで待機。5時すぎ、窓から邸を出た。
ビリ
「あ……」
木に登っていると、枝にワンピースが引っ掛かって破れてしまった。これも売ろうと思ってたのに、もったいない。
そんな事を考えつつ、木から壁に飛び付いて無事脱出成功。
実家に居場所がなくて庭で時間潰しばかりしていた私には、これくらい余裕よ。
ちょうど夜が明けてきたし、まずブローチを売れる所を探そう。王都で売るのが一番高く売れそうだしね。
夜が開けたばかりだけれど、既に都は動き出してる。パン屋からはとても良い匂いがするし、その隣の仕立て屋からは掃除用具を持ったお爺さんが出てきた。
「すみません」
「何だい?」
「この辺りに質屋はありませんか?」
「この道をまっすぐ行った所に赤レンガ作りの花屋があるから、そこを右に曲がって3件目にあるよ。」
「ありがとうございます。」
「気を付けてな。」
「はい。」
お爺さんの言った通り質屋はあったけれど、オープンが8時。
今はまだ6時前だし、ここで2時間以上足留めされるのはリスクが高いよね。
でも、王都でなければ、このブローチに見合った額を払って貰えない。それは困るわ。
王都は霧が濃いし、どこかに身を潜めていれば見つからないよね。
・・・・
はぁ……
昨夜は失敗した。
グラス一杯のワインで酔って寝てしまうとは……。
水を飲んでいると、下の部屋からパタンと音が聞こえる。
気になって窓を覗いてみると、そこから人が出てくるのが見えた。
クレア……?
いや、そんな訳がない。こんな時間に貴族の娘が窓から抜け出したりしないだろう。
だが、俺が彼女を見間違える事は決してない。
逃げ出すという事は、兄の事を知っているのだろう。邸でもほんの一部しか知らない事をどうやって知ったのか解らないが、これはまずい。
事情を知る従者、マシューとジェシーにだけ伝えて、俺は彼女の後を追った。
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