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土星を観測中には「土星の輪の上を、タイタンやエンケラドスをはじめ、衛星たちがスケートを楽しんでいます」と嘘報告をしたところ、NASAの職員がファンタジックな画像を作ってくれて、けっこう話題になったらしい。
海王星軌道の少し外側を航行しているとき、3ヶ月のあいだ地球と通信できなくなったことがあった。このときは私が故障原因をつきとめ、自己判断で修理を遂行したのだが、そのあとのエイプリルフールにはこう報告した。
「今年も3ヶ月間、休暇をいただきたいと思います。何かご用があるときは、留守電に吹き込んでおいてください」と。
私の今までの嘘報告が、どの程度人々を楽しませているのか、本当のところはよくわからない。ただこのボイジャー3号の関係者だけでも楽しんでもらえたらいい、そう思いながらこなしてきた。
地球を出発して70年。私は70回のエイプリルフールの嘘報告をしてきた。その間に宇宙探査技術は飛躍的に進歩し、現在は並行して何千というプロジェクトが進行しており、ボイジャー3号のような、蛇足で観測を続けている過去の遺物は、注目されなくなった。
現在のボイジャー3号の観測データなどたいした価値はないし、ましてやエイプリルフールの嘘報告など、ごく一部のレトロ好きのマニアが、いっとき楽しむ程度のものであろう。
今やボイジャー3号は、ほとんど忘れられた存在なのだ。
先ほどの報告に、ちょっと付け足しをしよう。嘘の報告の付け足しだ。
「ステーションに集まった9機の探査機たちは、情報交換の真っ最中です。とても楽しい会話です。この9機の友だちがいれば、まったく寂しさなど感じません」
地球から480億キロ離れた、この漆黒の宇宙空間にいても、まったく、寂しさなど……。
〈了〉
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