引越しのイカイ

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 お電話ありがとうございます。こちら「イカイ引越センター」です。    どのような「異世界」をお探しですか?    そうですね、まずは「転移」か「転生」か「憑依(ひようい)」かをお選びください。「転移」と「転生」の基本料金に大きな違いはありませんが、「転生」の場合生まれる家などの環境、そして容姿の美醜で大きくお値段が変わることになります。オプションとして性別の変更も可能です。   「憑依」はすでに存在している人物にお客様が成り代わるパターンです。これも地位や家庭環境、容姿によって料金が異なります。    次に引っ越す「異世界」をお選びください。基本プランは「のんびりスローライフ」系と「冒険」系がございます。「冒険」系の場合、凶暴なモンスターが生息していたり魔王が存在していたりと過酷な環境ほど料金はお安くなります。しかし、そうなると生き延びるためにも「チート能力」が必要になるわけでして、もちろん強力なスキルほど高額になります。この辺はどうバランスを取るかお考えください。    最近は「悪役令嬢」系も人気です。こちらは機転や策略だけでバッドエンドを回避することも出来ますので、料金はお安めとなっています。生き延びる自信があってスリルを味わいたい方にはオススメです。             ◆                   「ふぅ……」  電話の対応を終え、契約を取り付けたオペレーターの女性は軽く息を吐く。   「お疲れさん」  隣の同僚女性がねぎらいの言葉をかけた。   「異世界転生ってさ、もっと夢のあるものだと思ってたのになぁ」  オペレーターはそうこぼした。 「どしたの?」 「結局さ、こっちの世界でもお金がある人がいい条件で転生できるわけじゃん。要は勝ち組だよ。本当にこの世界から逃げ出したい人は過酷な条件でしか転生できない」 「でもさ、それでも一か八か()けてみたいってのもあるんだろうね。それこそ自殺を考えるくらいまで追い詰められている人はさ」 「……そうだね。(わたし)もお金が()まったら異世界転生したいなぁ」 「まあ、頑張ろうよ」  そうして雑談は打ち切られ、オペレーターは今回の契約内容を確認すると運転手に伝えた。   「オーダー入りました。本日十七時、場所は――」 「了解」  トラックの運転席で待機していた男は、そう言ってエンジンを始動させる。   「さて、お仕事お仕事」  一見何の変哲もない大型トラックだが、依頼主を異世界に送るための装置が詰め込まれている。これでひき殺せば仕事は完了だ。   ――二〇××年、人類は地球以外の異世界に人間を送る技術を確立する。そうして一大「世逃(よに)げ」ブームが巻き起こるのだった。 ~END~
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